11-4 確率

 次の日の昼休み、義弘は同僚の西田と中華料理店に出かけた。


 昨晩から頭がラーメン一色になっていた義弘は、店に着く前から注文するメニューを決めていた。


 唐揚げ定食にラーメンがついた「ワイルド中華ランチ」


「いらっしゃいませ」


 威勢のいい声とともに、店員が水を持ってきた来た。


「ワッ……」


 義弘がワイルド中華ランチと言おうとした瞬間、突然口が開けなくなった。手でギュッと押さえられている感じだった。


「太田あ、頼まないなら、俺先に頼むぞ。……店員さん。俺、台湾ラーメンの餃子セット」


 義弘にまたあの声が聞こえてきた。


「そのメニュー、カロリー高すぎ!唐揚げかラーメンだけにしなさい。ご飯も少なめ」


(なんでだよ。夜、我慢しただろ)


 黙って口を閉じているようにしか見えない義弘を見た西田は、


「すみません。こいつ後から注文するんで」


 と店員に謝った。その横で、里見と義弘のやり取りは続いた。


「まず、そのお腹引っ込ませなきゃ」


(大丈夫だって、こういう体型が好きな子もいるんだから)


「だったら、ぷよぷよお腹が好きな子と出会うまで待つつもり?これは確率の問題。そのお腹へこました方が、絶対、成功率上がるから」


 口を閉じたままピクリともしない義弘を心配した西田が声をかけた。


「おい大丈夫か?」


 その声で義弘の口を押さえていた手が離れた。


「プハー、……西田、声聞こえたろ。何か女の声」


「あー聞こえたよ。店員の声、ほら、後ろに……早く頼めよ」


 後ろを見ると、最初に来た店員が立っていた。


「お客様お決まりですか?」


 義弘は、不満げに小声で注文した。


「唐揚げ定食……ご飯少なめ」


「唐揚げ定食、ご飯少なめでございますね」


 義弘が頷くと、店員は厨房に大きな声でオーダーを告げた。


「お前どうしたんだ?ご飯少なめって」


「ダイエットだよー。……それより聞こえなかったのか?声」


「なんだよ、それ」


 里見の声は、義弘にしか聞こえないようだった。

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