11-5 里見の注文
その日の夜も、コンビニで買ってきたカツカレーとたまごサンドに里見のダメ出しが入り、カレーはカツ抜き、たまごサンドは半分だけに制限された。
冷蔵庫にあったジュースやスイーツは、処分されていた。
「もうー!里見さん!これじゃあストレス溜まっちゃうよお」
義弘は空腹を満たすこともできず、イライラを抱えたまま、いつもより早めにベッドに入った。
次の日起きると、テーブルにメモが置いてあった。
今日の夕食から、義君の食事は全部私が作ります。下に書いてある食材を全部買ってきてください。
そこには、味噌、豆腐に始まり、たくさんの野菜が書かれてあった。それは、自炊をしない義弘の家には無い食材ばかりだった。
会社の帰り、初めて寄ったスーパーで、メモ通りの物を買って帰ると、キッチンに里見さんが現れ、手際よく夕食を作ってくれた。
次の日の朝も、昼の弁当と朝食がテーブルの上に用意されていた。里見さんが作る料理は、少ない量だったが、不思議と義弘の口に合うものばかりで、満足感があった。
その週の土曜日、婚活パーティーがあった。
義弘が着替えをすませ、玄関まで行くと、里見さんに襟首を掴まれた。
「なに?里見さん」
義弘は里見さんの方に向き直った。
「義君、もしかしてそのまま行くんじゃないでしょうね」
里見の謎かけのような質問に対し、下手な解答をすれば叱られそうなので、義弘は必死で考えを巡らせた。しかし、引き止められる理由は、なにも思い当たらなかった。髪は整えたし、スーツも三ヶ月前に買ったばかりの物だ。
「あなた口ゆすいでないでしょう。朝、歯磨きしただけ。早く口臭ケアしてきなさい」
「それだけ?」
「それだけじゃないよ。匂いは大事だよ。イケメンはいい匂いがするって言うでしょう。はい、口臭ケア。やってらっしゃい」
義弘は、とぼとぼと洗面所にもどり、歯磨きとうがいをして戻ってきた。
玄関にはまだ里見さんがいた。
「行ってきます。里見さん」
義弘が出ようとするとまた止められた。
「義君、やっぱりその靴履くんだ」
革靴は履き慣れた物で、シワが入り、汚れも皮のヒビも見て分かる状態だった。
「オシャレは足元からだよ。今日は仕方ないから、せめて磨いてから行きなさい」
義弘は歯磨きの後は靴磨きをして、ようやく家を出る許しを得ることができた。
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