9-8 帰宅

 自宅に近づくと、家の前に人影が見えた。妻の麻衣子だった。


「運転手さん、ここです」


 省吾は言われた金額を支払い、タクシーから降りようとした。


「はい、領収書です」


「領収書なんていいですよ。自費ですから……」


「これはタクシーの領収ではないのですよ。……わたしもよく分かりませんが、配車の依頼をされた方からあなたに渡すように言われたものでして、受け取っていただかなくては……」


 暗がりの中、領収書を受け取った省吾は、それを見る間もなく、麻衣子の所へ行った。


「麻衣子、帰ってきてくれたんだな」


「お父さん、いつからこの家に? 省吾さんはどこですか?」


 麻衣子は怪訝な表情を浮かべていた。


「何言ってんだよ? 目の前にいるだろ。変な冗談はやめてくれよ。それより家に入らないか──」


 困惑する麻衣子の背中を押して、省吾は家に入った。


 家に入って、省吾は全てを理解した。


 玄関の鏡に、白髪混じりの初老の男が写っていた。そしてその男は紛れもなく省吾自身だった。麻衣子は省吾を見て、省吾の父親だと思ったのだ。


 困惑して鏡を見ていると、胸ポケットにある領収書が目に入った。


 取り出して見ると、領収書にはこう書かれてあった。


領収書

    10,875日(29年283日)

  相談料として 上記正に領収しました

内訳

  パチンコ 3日

  競艇 10,872日

     那楽華の湯

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