8-3 笑われる男

「おかえり!」


 笑太が家に帰ると、同棲中の優菜が迎えてくれた。優菜は、笑太がデビューする前から応援し、支えてくれた良き理解者だった。


「もしかしてお風呂入ってきた?」


「やっぱり分かる?匂いするよな。……日帰り温泉行ってきた。ちょっと変わった温泉やったけど、今度一緒に行こか」


 笑太が普通に話すと、優菜が大笑いした。笑太は訝しく思い、なぜ笑ったのか聞きただすと、「だって、笑太面白いもん」という事だった。


 笑わそうと思ってもいないのに、自分のしゃべりで笑われるのは、お笑い芸人にとって本意ではない。笑太は気を取り直して那楽華の湯について話した。


「入るだけで悩みが解決する風呂って宣伝してたから、行ったんやけど、そこの店員は『あなたのネタを聞いた人が大笑いすれば良いのですね。お任せください』って言うんや、そんなことできるはずないのにな。けったいな店員やったわ」


 この話をしても優菜は腹を抱えて笑った。


「もう、面白すぎるから、もう笑わすのやめて」


 不愉快に思った笑太は、スマホで検索するのに集中した。


「那楽華の湯……あれ? 何も出てこん。……やっぱ、けったいな温泉や」


 その時、着信音が鳴った。……演芸場からだった。


 明日、空きができたから入ってくれという催促だった。福助も承諾したということだったので、バイト先と調整してから、ライブに出ることを決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る