8-4 笑いの神様

 次の日、演芸場に入ると、先に来ていた福助が声をかけてきた。


「終わったら、ちょっと付き合ってくれるか」


「ええよ」


 コンビ解消の話だろうと、笑太は直観的に分かった。



 笑門の順番となり、最後となるであろうライブがスタートした。ネタは昨日と同じ「新聞ネタ」……でもまるで違ったのが、お客さんの反応だった。


 笑太が一言ひとこと言う度に、爆笑が起きたのだ。


「最近、新聞ってもんを読み始めてなあ。読むとホントに勉強なるでえ」


 わーっはっはっはっ!


 予想もしていなかった反応に、二人とも戸惑い、一瞬動けなくなった。


「八時から、『よってK』でイソコがボディペイントするとか、九時から『サンデードクター』でーー」


「それ全部、番組欄やないか。もっと他のもんないんかい」


 わーっはっはっはっ!


 二回目からは、爆笑が取れたことを快感に感じ、二人のテンションが上がってきた。


「社説、言うくらいやから社会の説に決まっとろが」


「社会の説な。知っとるで。足がつかない椅子に座って、足ブラブラする女性は未婚とかな」


「えっ、そうなん?知らんかったわあ。でも社説ってそんなのやったかいなあ。それなら俺も知ってるで……」


 わーっはっはっはっ!もうやめてぇ……笑い死にしてまう!客席からは、そんな声まで聞こえてきた。


「どうもー、笑門でしたあ」


 舞台裏に引き上げると、そこでも大絶賛を受けた。


「おもろいなあ、笑門。こんなおもろかったかなあ」

「おう、明日また来てくれ、頼むで」


 笑太も福助も、こんなに絶賛されたことがなく、どうリアクションをとればよいのか分からなかった。ただただ頭をかきながら、挨拶しながら演芸場を後にするのだった。


「福助、話ってなんや? 場所変えよか?」


 おそらくはコンビ解消の話だと思いながら、笑太から切り出した。


「いや、もうええわ。……ほんまはやめよと思ってたんやけど……お笑い。でも、今日のお前、ホンマおもろかった。これからも続けよ!やっぱ、お笑いええわ。……俺たちにもようやく笑いの神様が降りてきたのかもしれんな」


 笑太はホッとして、嬉しくて、涙が止まらなくなった。


「何を泣いとる……またおもろいネタ頼むで」


 そう言う福助からも涙が溢れてくるのだった。

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