1-7 梢女と奏多

「呪縛が解けてスッキリしたでしょう?」


 梢女の前には、お風呂に浸かる奏多がいた。


「そうですね。言いたいこと言ったらスッキリして……気づいたらここに来てました」


「君はここがどういう所か分かってるわよね」


「分かってますよ。地獄の入り口なんでしょう?俺はもう現世にはなんの未練もありませんから、いいですよ。いつでも」


「まあ、そうあわてなくてないで。私もちょっと暇だからお話ししましょう?人間世界で言う六年間の付き合いなんだから……」



 六年前──


 浴槽の縁に座る奏多の前に梢女が現れた。


「いらっしゃいませ。私、お客様の担当になりました梢女と申します」


「えっ?俺ですか?」


 目の前に突然やってきた女性店員が訳のわからないことを言うので、奏多は戸惑った。


「お客様の悩みをお聞かせください」


「やっぱり悩んでるように見えますか?俺……」


 奏多はため息をついた。


「お風呂で人生相談ですか。面白いですね。でもいいです。店員さんに解決できる問題じゃないんで」


「まあ、そうおっしゃらずに……物は試しと言うじゃないですか」


「ふっ……話したくないんですよ。言いたくないんです。親にも……」

「それと敬語やめてください。店員さんでしょうけど、俺の方が年下なんで」


「では悩みは聞かないから、叶えて欲しい願いを言ってごらんなさい」


(急に変わるな、この店員。多重人格者か?でも試しに言ってみるか……願いだけなら)


「転校したいかな?そうしたら何か変わるかも……」


「なあんだそんなこと。任せなさい」


「ずいぶん軽いんですね。いいですよ。期待せずに待ってます」


 こうして那楽華から帰ってきた奏多だったが、その二日後、奏多の父親の転勤が急に決まり、実際に転校することとなった。






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