受け継がれる意志

北の村、フートパス

ペレグレイン城が襲撃を受けてから約1週間が経った今、僕達はあるひとつの村に身を潜めていた。



その村はフードパスというやや大きい村だ。村長は今年で135歳にもなる長生きで、昔魔王軍と戦ったことがあると言っていた。



その村長と僕は、村長の寝室で二人きりで話していた。



「魔王軍は我々人々の敵だ。わしは昔腕に自信があったが、魔王五天魔の一人しか倒せなかったわい。やつらはとても強力で、一番上に立つ魔王がもし自ら動きだしたとするのなら、死を覚悟するしかないわい」



「魔王五天魔ってなんですか?」



「魔王直々の幹部のことでな、五人いるんじゃ。やつら一人一人が強力でな、一人だけで城が無くなるとかどうとか・・・・・・」



城が無くなる・・・・・・? 僕はあの日、お母さんの両足を奪った魔人のことを思い出した。



「村長、魔人ベトムって聞いた事ありますか? そいつだけ魔物の中で一番危ないと感じました。ただならぬ殺気に満ちていて、母の両足を切断したのもそいつです」



「魔人ベトム・・・・・・。聞いたことないな、そんなやつは。もしかしたら新しいやつかもしれんな。わしが倒したことで枠がひとつ空いたんじゃろ」



「魔人ベトム・・・・・・。僕はもうそいつとは関わりたくないです。でも今そいつは父と戦っています。今こうして逃げれたのも、父が戦ってくれているからです」



「不安は無いのか? 父がそのベトムとやらに負ける不安は」



「ないです」



僕はあの時、父の勇姿を見て圧巻させられた。それは、いつもの優しい父の姿を見せながら、戦士のような勇ましい、と思うようなそんな姿をしていた。足の自由が利かない母と、今も精神的ダメージを食らって元気の無いリビアを守るのは僕しかいない。これは父に任された、男の約束だ。



「お前の親父さんはそうとうたくましいんだろうな。名はなんと言う」



「コランです。コラン・メーデル」



そう言うと村長は驚くように目を見開きその言葉を復唱した。



「コラン・・・、あいつ、まだ生きていたのか・・・・・・」



村長はいきなり泣き出した。



「村長、どうしたんですか?!」



ぼくは慌てて村長の背中をさする。



「コランはな・・・・・・、わしの一番弟子だったんじゃ」



「え。俺のお父さんが、村長の弟子?」



「そうじゃ。コランはわしがまだ100歳の頃、まだ15でな。初め会った時コランは、残念なやつじゃった」



お父さんの過去・・・・・・。気になる。



「コランは若い時に親二人を魔物に殺された。知っているじゃろ」



「はい、知ってます。旅行先の街に魔物が襲撃した事件に巻き込まれたんですよね」



「そうじゃ。その時コランは目の前で親を殺され、コランも魔物に襲われるその時に、わしがやつを助けたんじゃ」



「助けて貰った人がいるとは聞いていましたが、まさかその人が後に師匠になるなんて。なんでお父さん、なにも言わなかったんだろう」



「お前のおやじは、過去の話などしなかった人じゃろ」



「はい。後の話だけを聞かされて、前のことや詳しい内容などは聞いたことないです」



「コランは昔のことを思い出したくないんじゃろう。そして、今を見ていたかったんじゃろ。コランがお前さんたちを逃すとき、お前は何を感じたんじゃ」



「勇敢な父の姿です」



「・・・・・・自慢の父か?」



「世界で一番かっこいいです」



「じゃろ、あいつは過去に勝ってそして、今家族のために勝とうとしている。わしらであやつの帰りを待とう」



「・・・・・・ですね」



お父さんが今の僕と同じ歳の時、父は僕と同じような立場に立っていたんだ。おじいちゃんとおばあちゃんは目の前で殺されたけど、父を強くしたのは今目の前にいる村長だ。そして父は、同じ境遇に立っている僕に対し、誇れる存在でありたいと僕に背中を向けあの場から逃してくれた。父が前よりも勇敢に見える気がした。



「エリスくん、村長! マーリィさんの様態がおかしいです!!」



「様子がどうしたんじゃ!」村長はすぐにベッドから降りる。



「お母さんに何が?!」先を行く村長の後を追いかけるように、母のいる部屋へと急いだ。











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