闇催し⑨
バーズ視点
計画を決行するという段階で、ミーシャが想定以上に怯えているのが気になった。 バーズの計画ではミーシャは危険な目に遭うことはない予定。 おそらくはフェレに殺されかけたことを気にしているのだ。
「怖いのか?」
「・・・はい」
「俺がいるんだから安心しろ」
バーズは震えるミーシャの肩を抱いてやった。 奴隷として買った彼女であり、道具のつもりだったがどうにも調子が狂う。
―――祭りの間は警備が手薄になっている。
―――計画は少々狂ったが、宝物さえいただければ問題はない。
しばらくしてミーシャの震えが収まるのを見て早速動き始める。 物音を立てないよう慎重に移動した。
―――いや寧ろ、リスクは上がったがコイツを手放さなくて済むんだから儲けものなのか?
―――俺はコイツ自身に一億の価値があると思ってしまっているな・・・。
何気なくミーシャを見ていると目が合った。 ミーシャは不思議そうに首を傾げている。
―――女盗賊に仕込むのもいいかもしれない。
―――部下を闇オークションにも潜入させて、金を盗み出す手はずになっているが・・・。
―――他の奴らは大丈夫か?
払った額を全て回収できるかは分からないが、収穫がないということもないだろう。 だが無事に成功し奪うことができたらの話だ。
―――あまりモタモタはしていられないな。
―――この祭りは第一王子の戴冠を兼ねていると聞いた。
―――第二王子が変な動きをすれば祭りどころではなくなるのかもしれない。
―――その前に何とかしてこの国から去らないと・・・。
予め調べておいた城への侵入経路を通り城へと足を踏み入れた。 門番二人を部下と共に静かに打ち倒し煌びやかな廊下を歩く。 ここまで予定通り、いや、予想以上に容易い。
「お頭! 祭りの最中ともあって警備が手薄っすね!」
「あぁ・・・」
―――元々予想はしていたがあまりにも簡単に行き過ぎていないか?
―――・・・いや、コイツが上手く陽動してくれているおかげかもしれないな。
―――姫とそっくりなコイツを手に入れることができてよかった。
人がいれば姫と似たミーシャを使い上手く誘導する。 そのうちにバーズたちは進みその先でミーシャとまた合流する。 この繰り返しだった。
―――しかし本当にミーシャは姫と何の関係もないのか?
―――まぁ世の中には自分と似た人間が三人はいると言うが・・・。
バーズがそう考えるのも無理はない程に姫とミーシャはよく似ていた。 もっとも奴隷オークションではまだ奴隷らしさが滲み出ていて、身なりを整えたことで、という条件は付くが。
―――まぁ、気にしても仕方がないことか。
「って、ん?」
宝物庫を探すため扉を調べていると、ある奇妙な壁が気にかかった。
「もしかして隠し扉ですかね?」
「そうだろうな。 これが宝物庫に繋がっているんじゃないか?」
隠し扉を開き中へと入る。 鍵はかかっていたが盗賊であるバーズたちからしてみればあまり意味のあるものではなかった。 扉の先は灯りが最小限しかなく地下へと続いている階段だった。
―――隠し扉で地下にあるとなると、コイツ一人で宝を持ってこさせるのは無理だったな。
だが歩いてはみるが何かがおかしい。 鉄のような生臭い臭いが鼻につき異様な雰囲気に包まれているのだ。
「何ですか? この酷い臭い・・・」
そしてその奥で見たのは王様、女王、他大量の人間が無残に殺されている凄惨な現場だった。
「ッ・・・!」
部下の一人が反射的に嘔吐し、ミーシャがその光景を見て倒れそうになった。 それを慌てて支える。
「おい、大丈夫か?」
「・・・」
気分が悪いのかぐったりしていた。 だが無理もない。 バーズ自身血生臭い現場の経験なんて何度もあるが、ここまで酷いものは初めてだった。 死体の具合を見るにまだそれ程時間が経った様子はない。
長くとも二日以上は経っていないだろう。
「何なんだ? これ」
「お頭、ヤバいですよ! この国!!」
「あぁ・・・」
目の前の光景に頭が追い付かずにいると階段の上から人が下りてくるのを感じた。 流石に場数を踏んでいるためか、嘔吐していた部下でさえ既に臨戦態勢を整えている。
「おいおい、こんな時にマジかよ」
「隠れますか?」
「・・・そうだな」
ミーシャを抱えながら話し合っていると階段の上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これは全て第一王子の命令が原因で起こったことさ」
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