闇催し⑧




―――見つかった・・・!


身体の自由を奪うものは何もないが、履き慣れていない新しい靴では逃げられそうもない。 たじろいでいるうちに行く手を阻まれ、逃げる機会すら失ってしまっていた。


「お前は既に俺のもんだろ? 動くなって言っておいたのに、何一人でふらついてんだよ。 誰かに見られたりしていねぇだろうな?」

「あの、その・・・」

「ん? 何を持ってんだ?」

「あ・・・」


フェレにもらった箱は持っていれば目立つのは自然。 バーズは目ざとく見つけると簡単に箱を奪ってしまった。


「これは何だ?」

「・・・」

「拾ったわけじゃねぇだろ? 誰から受け取った?」

「・・・」


ミーシャは何も答えなかった。 答えられるわけがなかった。


―――・・・フェレまで巻き込みたくない。 


ミーシャが答えないのを見てバーズは箱の観察を始める。 ミーシャからするとよく分からない代物だが、バーズは何か分かるのかもしれない。


「・・・んん? この紋章、どこかで見たような気が・・・」


―――・・・紋章?


「おい、ミーシャ。 これは誰から受け取ったんだ?」

「・・・」

「答えろ。 主人からの命令だ」 


主人にそう言われれば答えるしかなかった。


「・・・フェレからです」

「フェレ・・・?」


名前を聞き小首を傾げると、おもむろに箱を耳元にもっていった。


「時計の音ッ!?」


バーズは箱を強引に開け中を確認しする。


「これは時限爆弾じゃねぇか!」

「え・・・!?」

「お前どうしてこんな物騒なもんを持っている!? その様子だとこれが爆弾だって知らなかったんだろ!?」


―――時限爆弾?

―――それは王子様に渡すプレゼントのはずじゃ・・・。


フェレが中身を間違えたのだろうか? だとしても、時限爆弾を持っていたのは事実だ。 もしこれが爆弾だと知ってたとしたら、フェレは王子を殺そうと・・・?

そのようなことを考えていると、バーズは顔を真っ赤にして声を張り上げる。


「ミーシャ! そのフェレという奴は今どこにいる!? 案内しろ!!」

「・・・はい」


そう言われミーシャは来た道を戻った。 そこには神妙な面持ちをしているフェレが待っていた。


「はぁーッ。 やっぱりこの紋章は王家の印で間違いなかったか」


自信あり気に言うバーズを横目で見る。 バーズはニヤリと笑って言った。


「こんなところで何をしてんだ? 第二王子のフェリオット様よ」

「第二王子・・・!?」


ミーシャは初めて聞いた事実に驚いていた。 最初の出会いが奴隷オークションの会場だったため無理はない。 バーズは驚いているミーシャの肩を抱き寄せる。


「コイツは俺のもんなんだ。 ちょっかいをかけないでくれるか?」 


その言葉にフェリオットも負けじと言い返す。


「お前は盗賊の頭だと聞いている。 オークションに参加していいのはこの国の住人だけだ」

「だからコイツを攫って助けたって? おかしいだろ。 じゃあどうしてこんな物騒なもんをコイツに渡したんだよ?」


そう言って爆弾の入った箱を掲げてみせた。 フェリオットは黙ったままだ。


「ったく。 話になんねぇな。 ただ一つ言えるのは、コイツの命なんかどうでもよかったということだ」

「え!?」


ミーシャを顎で指してそう言った。


―――そうだったの・・・?


爆弾の運搬役をさせたのだから巻き添えを食らう可能性は高い。 フェレがどのタイミングで爆破する予定だったのかは分からない。

だが確実に王子を爆破したいなら、もっとも成功率が高いのは渡した瞬間に決まっている。 そう思うと怖くなった。 今まで優しくしてくれたのに、それが全て偽りだったのだ。

バーズは箱の中身を弄くり出す。


「おい、何を! ・・・え?」


止めに入ろうとしたフェリオットだったが首を傾げた。 箱から聞こえていたはずの時計の音が聞こえなくなったのだ。


「なッ!? その爆弾は一度動くと止まらないと聞いていたのに!」

「ウチの爆弾を使ったのがミスだったな」

「ウチの爆弾? それは海賊が作った爆弾だったのか」

「そうだ。 俺が止め方を知らないわけがないだろう?」

「・・・くそッ! 火力が高くて動作不良もないって聞いて買ったのが間違いだったか・・・ッ!!」 


フェリオットは形勢が悪いと判断したのか逃げていった。 呆気に取られるミーシャの髪を男は乱暴に撫で回す。


「わッ!?」

「危ないところだったな。 人を簡単に信用するな」

「・・・ごめんなさい」

「信用できるのは金だけだ。 もっとも俺のことは信用できなくても付いてきてもらうがな」

「・・・はい」

「ちなみに、あの爆弾で誰を殺そうとしていたんだ?」 


答えようか迷ったがここはもう答えるしかなさそうだった。 信頼を裏切った、いや、最初から自分を利用としていたのはフェレなのだ。


「・・・第一王子って言っていました」

「第一王子? ほう・・・」


バーズから逃げようとしたことをもっと責められると思っていた。 しかしバーズはそれ以上追及することをしなかった。


「さて。 イレギュラーなこともあったが、これ以上この国に長居するわけにもいかないんだ」


再び肩を抱きこの場から移動する。


「さっきの話を計画に移すぞ」

「・・・はい」


詳細は小声で聞かされた。


「お前は城へ忍び込み姫を殺して姫のフリをする。 それだけでいい」

「姫様のフリ・・・? ・・・分かりました」

「と言いたいところだが、姫を殺すのはなしだ」

「え?」

「第二王子にお前のことを知られてしまった以上、姫に成り代わるなんて無理だからな」


計画が自分のせいで崩れたことに責任を感じた。 ただ人殺しをしなくて済んで内心ホッとしていたのも嘘ではない。


「・・・私のせいでごめんなさい」

「そう何度も謝るなって。 俺が何とかするからお前は一緒に宝物庫へ侵入しろ」

「・・・分かりました」


バーズは小型のトランシーバーで誰かと連絡をとる。 人を殺さなくて済むことになったため心が少し軽くなった。

 

―――バーズも付いてきてくれるんだよね・・・?


更に一人でなくバーズも行くというのなら心強い。 爆弾で死ななかったこともあり少しずつ運が向いてきているような気がした。 向かうと城の周囲には異様な恰好をしている男たちが潜んでいた。


「ッ・・・」 

「怯えるな、大丈夫だ。 俺の部下たちだ」

「部下・・・」


いつの間にかバーズの部下たちが陰に潜んでいたようだった。 既に計画を変更したことを伝え侵入を手伝ってくれるらしい。


―――・・・どうしてこの人たちも私を見て驚いた顔をするんだろう?


「行くぞ」



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