闇催し⑦
ミーシャ視点
フェレは何か言いにくいことがあって、しかもそれに困っているような雰囲気だった。
ミーシャとしては深い意味はなく、ここまで色々と助けてくれたフェレに恩返しできることがあるのかもしれない、と善意から尋ねかけた。
「あぁ、そうなんだよ。 ごめんね、気を遣わせて」
フェレは少しばかり明るい表情を見せるが、すぐにその光は消えていった。 やはり困っていることがあるのだ。
「ううん。 フェレは私を助けてくれた。 だから何か困っていることがあって、私に何かできることがあるのなら手伝いたい」
そう言うと大袈裟に驚く顔をされる。
「いいよ、そんなもの! 見返りがほしくて助けたわけじゃないし」
「でも私なんかにここまでしてくれた人なんて、本当にいなくて・・・。 お礼をしないと気が済まないから」
「『私なんか』って、そんなことは言っちゃ駄目だよ」
「・・・」
ジッとフェレを見つめてみる。 するとフェレは歯切れ悪そうに言った。
「んー・・・。 そう? そこまで言うなら、一つだけ頼もうかな」
「うん! 何に困っているの?」
ようやくフェレに恩返しができると思い食い気味に返事をする。
「城へ行って渡してきてほしいものがあるんだ」
「・・・お城へ?」
バーズと少しだけ似通ったことを言われ首を傾げた。
「そう。 これを持ってね」
手渡してきたのはミーシャが見たことのないような美しい装飾がされた小さな箱だった。 華美な飾りが高価な雰囲気を放ち、蓋のようなものが付いていて開閉できるようだ。
「綺麗な箱。 これは何?」
「それは国一番の職人が作った土産物だよ。 中に指輪とかを入れることができるんだ」
「土産物・・・。 国一番とだけあって凄く綺麗ね」
「そうでしょ?」
「私はこれを誰に渡せばいいの?」
「城には王子がいると思う。 その王子に『お祝いだ』と言って渡してくれればいい」
別に男同士で贈り物をしてはいけないという決まりはない。 だが相手が王子となれば気になってしまうのも仕方がなかった。
―――王子に?
―――祝いの品なら、直接渡した方がいいんじゃ・・・。
何故フェレが贈り物をしようとしているのか分からないが、おそらくは面識があるからするのだ。 ミーシャは王子の顔すら全く知らない。
そんな自分が渡しに言っても互いに困惑するだけなのではないかと思ってしまう。 だがフェレが困っている様子を見せていて、ようやく話してくれたことなのだ。
とりあえず王子の特徴を細かく聞き、それから詳細を伺おうと思った。
「渡すだけでいいの?」
「うん。 本当は僕が行こうと思っていたんだけどね? ミーシャがどうしてもって言うから」
そう言われると少し違うような気もして首を捻る。 フェレが渡しに行こうとしているような雰囲気ではなかったのだから。
―――困っていると思ったからで、どうしてもというわけじゃなかったけど・・・。
―――私がやるって言っちゃったもんね。
―――こんな大切な役目を任されたんだから、最後までやり遂げないと。
「分かった。 でも一つ心配なことがあるんだけど・・・」
「どうしたの?」
「私のような部外者が城へ入ると、すぐに追い出されるんじゃないかな?」
バーズの話の時もそうだったが、ミーシャが一番懸念していたことだった。 ミーシャは元々田舎育ちで王城なんて見たこともなかった。
ただその存在だけは知っていて、簡単に入れなさそうとは思っていた。 それも身分の高い者なら可能だろう。 だが現在のミーシャは奴隷の身、近付くだけで追い払われてもおかしくない。
「あぁ、それは大丈夫」
「え?」
「その土産物は由緒あるものだから、見せればミーシャのことを疑う者はいない」
「そう、なの・・・?」
あまり納得はいかないが信頼のできるフェレのことだからと割り切った。
「僕はここで待っているね。 何かミーシャのために美味しいデザートでも用意しておくから、期待して行ってきてよ」
「・・・分かった。 じゃあ行ってきます」
「うん、気を付けてね」
ミーシャは一人城へと向かい離れていく。
―――・・・どうしてお城なんだろう?
―――バーズといいフェレといい・・・。
―――二人共、何かを隠しているみたいだった。
―――でも私は単なる奴隷。
―――ご主人様の事情に深くは突っ込めない。
そう考えながら歩きもうすぐで城へ着くというその時だった。 背後から聞き覚えのあるドスの利いた声がかけられたのだ。
「ようやく見つけた」
「ッ・・・」
冷や汗を隠しながら振り向くと、予想通りそこにはバーズが立っていた。
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