闇催し⑥
フェレ視点
「急に泣いたりしてごめんなさい・・・」
「大丈夫だよ。 泣き止むまでこうしていてあげる」
ミーシャの背中をさすりながら、今日のことを考えていた。 祭りの会場から外れているため人通りはそう多くないが、それでもそこかしこ装飾されている。
そしてバーズもミーシャも祭りが何故行われているのか知らなかったが、フェレは正確に理解していた。
―――今日は王位継承権第一位の王子の誕生日。
―――・・・あぁ、どうしてこんなにも王子のことが憎いんだろう?
―――あんな王子のためだけにこんな大掛かりなフェスティバルを開いちゃって。
―――・・・本当に嫌だ。
しばらく背中をさすってあげると泣き止んだミーシャが尋ねてきた。
「ありがとう。 そう言えば、フェレはどうしてあの会場にいたの?」
「ん?」
その質問には少し動揺した。
「フェレみたいに若い子があんなところで働いているなんて驚いたから」
「あぁ。 こっそり侵入していたんだよ」
「侵入?」
「そう。 本当はあそこで仕事なんかしていない」
その言葉にミーシャは安堵した表情を見せた。
「よかった。 何か安心した」
「今日は外から大物の海賊が来るって聞いたからさ。 この国の国民以外の者は、本当はオークションに参加していはいけない決まりになっていてね」
「そうなんだ」
「まぁ、あまりに大金だったから主催者は見逃したみたいだけど。 僕は海賊に買われた人を守ろうと思って侵入していただけ」
「だから私を助けてくれたんだね」
「そういうこと」
ミーシャはフェレの言葉を疑うことなく素直に頷いている。
―――信じてくれたようでよかった。
―――・・・それに闇オークションのことや海賊が来るのをどうして知っているのか、聞かれなくてよかった。
フェレはミーシャから視線をそらす。
―――僕の本当の目的は使えそうな奴隷を探すために会場に侵入していた。
―――・・・一応は王族の僕が、奴隷を買っていることがバレたらスキャンダルになる。
―――だから奴隷は買えない。
―――あの男からミーシャを奪うことしかできなかったんだ。
―――・・・ごめんね、ミーシャ。
―――騙すようなことをして。
穏やかな表情を浮かべているミーシャに心の中で謝る。
―――今はフードを被ってくれているけど、思わぬところでミーシャの顔が知れ渡ってしまえば大変なことになる。
―――この後はなるべく早くどうにかしてミーシャを城へ入るよう誘導しないと。
―――・・・そして第一王子を殺させる。
―――そしたら僕は王になることができる。
―――自爆攻撃だからミーシャも王子と共に死ぬんだ。
―――・・・これでミーシャを利用したという証拠もなくなる。
フェレもミーシャを利用するために近付いていた。 バーズのように大金を出せればよかったが、残念ながらそれは不可能だった。
だからなるべく信用してもらい、自分から手伝ってもらえるようにするのが計画だ。
―――今まで第一王子は年下のくせに僕を格下を扱うように接してきた。
―――確かに母親は違うけど、アイツさえ生まれなければ僕が王位を継ぐはずだったんだ。
―――アイツが王になるなんて死ぬ程嫌だった。
―――・・・でも今日でその恨みはなくなる。
心に少しでもゆとりができ思わず顔が綻んでしまう。
―――そしてついに実行する時が来た。
―――ミーシャは僕に恩を感じてくれているはずだけど・・・?
フェレは自ら口を開いた。
「ミーシャを逃がすためにはこの国にはいられない。 ただ・・・」
「・・・ただ? 何か気になることでもあるの?」
「うん、まぁ・・・」
―――僕から言うと怪しまれる。
―――だからミーシャから尋ねかけるように誘導しないと・・・。
しばらく口ごもっていると狙い通りミーシャが自ら尋ねてきた。
「何か困っていることでもあるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます