闇催し⑩
バーズ視点
「・・・何?」
振り返ると階段にはフェリオットが腕を抑えて立っていた。 新しい怪我のようで、指の間から赤い鮮血が覗く。 もっとも階下の凄惨な光景を見て感覚が麻痺しているのか、大した動揺はない。
―――怪我?
―――この短時間で何があったんだ。
先程出会った時にはそんな傷はなかったのだ。 何気なくミーシャを見てみると、どこか気まずそうにしていた。
「お前が殺そうとしていた第一王子のことか」
「そうだ」
「どうしてこんなことをしてるのか知っているのか?」
―――第一王子の命令だとしても異様過ぎる。
―――そもそも国王、王妃は実の両親じゃないか。
フェリオットは少し考えた後に言った。
「もう手遅れだから全てを話してあげるよ。 第一王子は人間を管理し、寿命をコントロールしようとしていたんだ」
―――人間を管理、だと・・・?
その言葉だけで気味の悪さが伝わった。
「この国では長らく少子高齢化が問題になっていてね。 労働力として低俗な人間は処分することになったんだ。 つまり五十歳以上は全員殺されることになった。
それでまずは見せしめということで、国王から処刑してみせたのさ。 ここはとりあえずの死体遺棄所というわけ」
実際に地獄のような現場を目の当たりにしているし更に心当たりもあった。
―――ここへ来てから老人の姿を見ていなかったな。
―――闇オークションも若い奴らばかりだったし、そういうことか。
―――どれだけ若い人が集う国を作りたかったんだよ。
フェリオットも王族ということで色々あったのだろうと推察できた。 ただ落胆ぶりからすると、あまり意見は取り入れられなかったのだろう。
「減らした人員の補充として、奴隷を他の国から仕入れていたのさ」
「なるほどな。 奴隷オークションにしては随分と大規模に思ったが、そういうことだったのか」
「この国は狂っている。 お前もそう思うだろ?」
同情を求める瞳、バーズ自身この国の人間ではないが思うところはある。
「・・・そうだな。 この国は確かに狂っている」
「僕が今日何とかしようと思ったけど、お前に邪魔されてしまった」
「何とかって何をしようとしていたんだ?」
「それはミーシャから聞いたんじゃないのか?」
ミーシャはまだ気分が悪く立っているのもやっとという感じで話せそうもない。 ただフェリオットに何をさせられそうになったのかは聞いている。
―――第一王子を殺すとか言っていたな。
―――そしてコイツは第二王子。
―――王子になってこの国の方針を変えようとしていたのか・・・?
―――これが一番自然な理由だな。
もしそうであったとしてもミーシャを犠牲にしようとしたことは褒められたものではない。 バーズ自身大金をかけていることもあるし、無関係の人間を自爆テロの道具にしようとしたのは擁護できなかった。
「本当は腸が煮えくり返る思いだけど、僕には助けたい人がいるんだ」
「それは誰だ?」
「・・・母さんだよ」
「・・・母さん、ね」
バーズはこの国を調べている過程でフェリオットの事情も少しは聞いていた。 第一王子とは腹違いであり、あまり仲がよくないこと。 フェリオットの母親は貴族ですらないメイドで肩身が狭いこと。
それでも王はフェリオットを王子として認知していたこと。
―――何歳かは知らないが、母親は50歳を超えているということか?
バーズは既に全ての血の繋がりを失った身。 両親のこともほとんど憶えていない。 それでもその心情が全く分からないというわけでもなかった。
「もう第一王子を殺すことは無理だろう。 母さんと二人ではこの国から逃げることができない。 どうか僕たちを船に乗せてくれないか?」
それは突然の願いだった。 青ざめた顔で懇願する姿は王子にはまるで見えない。 だからこそ、それが本物なのだと理解した。
―――・・・嘘を言っているとは思えないな。
考えていると部下がやってきた。
「お頭! 宝は全て移動させましたぜ!」
部下たちは大きな荷物を持っていて、微かに聞こえる金属音から間違いなく宝を奪ってきたのだと確信した。
―――宝物は無事手に入れることができたようだな。
フェリオットを見て言う。
「・・・俺たちの目的は達した。 そしてお前の話も分かった」
「じゃあ!」
「だがコイツを殺そうとしたお前を連れていく義理はない」
「なッ・・・」
そう言ってバーズはミーシャをしっかりと支え直す。
「行くぞ。 歩けるか?」
バーズとミーシャと手下たちは城を後にするため歩き出す。 その去り際にバーズはフェリオットに向かって言った。
「もっとも船に勝手に忍び込まれたら、この国には戻らないから他の国に捨てることになるがな」
「・・・ッ!」
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