闇催し③




バーズ視点



姫を殺すことを伝えたミーシャは当たり前のように動揺していた。


―――そりゃあ、突然こんなことを言われたら動揺はするよな。


正直、ミーシャがどんな反応をするのかもバーズからしたら重要なことだ。 この計画で何よりも大切なことは成功すること。 先行投資としてはあまりに高過ぎる額を払い、失敗したでは済まされない。


―――まぁ、もし使えないなら使えないで他に用途はいくらでもある。


反応を楽しむように眺めていると、ミーシャは恐る恐る聞いてきた。 


「えっと、姫様を殺すんですか・・・?」

「あぁ」

「・・・」

「お前の命は俺が買った。 所有物であるお前にとって俺の命令は絶対だ」


ミーシャは流石に人殺しをさせられると思っていなかったのか複雑な表情をする。 しかし、彼女に断る権利がないことをバーズはよく分かっていた。 


「そうだよな?」

「・・・分かっています」

「ならいい」

「でもどうして姫様を殺すのに、こんなに着飾る必要があるんですか?」


バーズは少し考えた後に言う。


「・・・いや、お前は何も知らなくていい」

「え・・・」

「ただ黙って俺の言うことだけを聞いておけ」

「・・・分かりました」

「そうすれば今まで生きてきた人生なんかよりも、ずっといい暮らしをさせてやるからさ」 


ミーシャは腑に落ちない顔をしていたが小さく頷いた。


―――初めて会った男にこんなことを言われても、すぐに信用できるはずがないか。

―――だけどこれが奴隷の運命。

―――高い金を払ったんだ。

―――俺の期待以上の働きを見せてくれよ? 


ひとしきりミーシャの反応を楽しんだ後、バーズはいくつか済まさないといけない用事を思い出した。


「少し外す。 お前はここで待っていろ」

「・・・はい」


バーズにとってミーシャを連れて歩くのは少々都合が悪かったのだ。 もちろんそのために帽子を被せたわけではあるが、それでも万が一ということがある。

あまり動かれるよりも一所でジッとしていてくれた方がいい。 しかし、その判断が後にマズかったのだと気付く。


―――しっかし闇オークションが開かれているっていう時に、どうしてこんなに賑わっているんだ?


海へ向かう道中、国で行われている祭りの熱気を見ながらふと疑問を感じた。 当然だが闇オークションが行われていることを国民が知るはずがないだろう。

ただ祭りの最中に闇オークションを開くのも不可解だ。 たまたまブッキングしたのか、それとも意図的なものがあるのか、バーズにはよく分からなかった。 


―――・・・何か若い奴らが多い気がするな。


バーズは船まで辿り着いたわけだが、それは一見して見分けることができないよう偽装されているが海賊船である。 そしてバーズは海賊船の船長だった。

バーズには大勢の仲間がいて、船長の登場に見張りがいち早く気付く。


「お頭! こちらは準備、全て順調に進んでおりますぜ」

「そうか。 俺も予定通りの、計画における最重要となる女を手に入れた」

「それはやりましたね!」

「あぁ。 思ったよりも高く付いたが、カタログを超える素晴らしい女だ」

「会うのが楽しみっす!」

「格好も整え終えたしあとは段取りを始めればいいだろう」

「流石お頭! 船はいつでも出航できますぜ」

「お前たちも流石だ」

「それで、いつ決行するんですかい?」

「もうとっととやらせてこの国を出ようと思っている。 今からアイツを城に侵入させて計画を実行に移す」


そう言うと力強く仲間は頷いた。 


―――その後に『お前が代わりの姫となれ』とアイツに言う。

―――姫となって宝石部屋へと侵入させ、国宝を俺たちの船へ移動させ・・・。


頭の中で流れを整理する。


―――・・・よし。

―――完璧な流れだ。


計画は既に練ってあり、あとはミーシャを手に入れ実行に移すだけだった。 高い出費ではあったが、王国の宝物となれば数億、数十億は優に超える。


「アイツにはこれからもずっと姫でいてもらうんだ。 随分と幸せな暮らしができることだろうな」

「はい。 寧ろお頭に感謝してほしいくらいですね」


―――アイツが姫としてこの国の王族に居座ることができれば、今後金はいつでも引っ張れることになる。

―――つまりはこの国は半永久的な金づる。

―――気張って頑張ってくれよ、ミーシャちゃんよ。


王国から無尽蔵に金を引っ張ることがバーズたちの計画だ。 つまり国を相手取り海賊行為を行う。 今までで最も大きなヤマとなって、入念に計画は練り上げてきた。

たとえ失敗したとしても、退路はきっちり確保している。


「ということで今から実行する。 国宝を乗せたらすぐに船を出せる準備をしておけ」

「分かりました!」


バーズはミーシャのもとへと戻った。


―――話によるとアイツは今日この国に来たばかり。

―――汚れていないのもまたよかった。

―――カタログでは精神状態も良好と書かれていたが、がめつい奴隷商の言うことは結構当てにならねぇからな。

―――まぁ今回に関して言えばカタログ以上だったから、何も言うことはねぇが。


今の状況に満足するも一つだけ気になることがあった。


―――・・・一つ心残りがあるとすれば、奴隷にしては有り得ない程の上物のアイツを今日で手放すことくらいか。

―――計画がなかったとしても一億くらいの価値はあるかもしれない。

―――勿体ない気もするけど仕方がないよな。



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