第7話 VSクラウス

 歩きながら説明を受けた決闘のルールはこうだ。


 ・使用する武器は訓練校舎内の倉庫に保管されている訓練用の物を使用する。

 ・防具は自己の物でも訓練校舎内にある物でも可とする。(補足説明:緊急自動障壁オートプロテクションシールドには多少のバリア機能が搭載されているため、防具は衝撃から来る痛みを緩和させる効力しかないからとのこと。)

 ・能力向上系スキル及び魔法が付与された装飾品はランク5以下の中級魔法までを上限とし、一目で見える指輪に限定して一つだけ装備する事を可する。

 ・装備した装飾品の効力は決闘を始める前にお互いに公言し合い周知の事実とする。(補足説明:指輪による効力は自己の努力によって身に付けた力ではないため、強力な魔法の指輪の仕様を事前に防ぐ他、互いに公平を期すために情報を共有するためとのこと。)

 ・修練の末に身に付けた戦技及び魔法の仕様は可のものとする。ただし、使用できる魔法の上限は中級魔法レベルまでとする。(補足説明:上級魔法や更にその先にある魔法のレベルまでくると、緊急自動障壁オートプロテクションシールドのバリアを容易く破れてしまうため、命を守る事が出来ないからとのこと。)

 ・勝敗の決め方は、手元の武器が身体から一メートル以上離れるか、緊急自動障壁:オートプロテクションシールドのバリア機能が停止した方を敗北とする。


 ――以上、六項目。


 聞く限りでは公平に聞こえる。

 しかし緊急自動障壁オートプロテクションシールドなる物がどの様なものかが分からない以上、俺の不安を拭える説明ではなかった。何よりの気掛かりは、円盤型の首飾りを二人に手渡して建物の陰で傍観を決め込んでいるユーティス教員の存在だ。彼女が隠す事なかったエステルに対する侮蔑的な視線を俺は忘れる事が出来ずにいる。

 そんな心配をしている俺を余所に二人は訓練広場の中心に向かって歩いていた。

 それなりに歩を進めて立ち止まり、お互いが向かい合う一拍の間。

 クラウスが先に動き出して左手で握っている剣の先をエステルの方へと向けた。


「俺が選んだ小物は雷光の指輪だ。この指輪には光の中級魔法ライトニングの簡易術式が刻まれている」


「エステルは発光の指輪。光の初級魔法フラッシュライトが記録されております」


 相対するエステルは右手のメイスを下げたまま直立不動を保っている。

 その姿にクラウスは目尻を吊り上げた。


「貴様、その巨大な荷物を背負ったまま俺と戦うつもりか?」


 どうやらクラウスはエステルにハンデを付けられていると感じているらしい。

 まぁ無理もないとは思う。此処数日とクラス内を観察した限り、エステルはDクラス内でも特に小さな子だ。そんな子が自分よりも遥かに大きな物を背負っている姿を見れば、誰だって体力と機動力を削ぐ邪魔な重荷と受け止める事だろう。


「このモノと共にあること。それが、神がエステルにお与えくださった救いであり、試練なのです」


 しかしエステルは手放す気はないらしい。


「俺との勝負の際も下ろす気はないと?」


「はい。どうしてもと言うのでしたら考えます」


「………舐められたものだ。それを負けた言い訳にはしてくれるなよ」


「はい。承知しております」


 不服そうではあるがクラウスはの持ち込みを許した。

 公平な試合をする事に注視していた彼が何故許してくれたのか、その正確な理由は分からない。が、多分恐らく、異世界人である彼等の神々への信仰心がエステルへの理解を示したのだと俺は思っている。

 とにかくこれで、お互いに質問タイムが終わった。

 チックタックと時間がゆっくりと進む中、クラウスは何も語らずに背を向けて数歩の距離を取る。

 そうして足を止めたその時、二人の戦いは合図もなく始まった。


「ライトニング!」


 まだ深く踏み込めば剣が届く距離にいるエステルに向かい、クラウスは振り向きざまに右手を伸ばして魔法を唱えた。

 袖から零れる緑色の発光。同時に掌の中心が白く煌めいた。

 そうして発射された稲妻をエステルは横に身を投げ出して避ける。


「ライトニング!」


 間髪入れずにもう一発。

 先ほどよりも細い稲妻が地面に転がるエステルに襲い掛かる。だがそれは覆い被さる棺によって阻まれてバチンと音を上げて霧散した。


『あ、あぶねぇ。問答無用かよ』


 俺が背負われていなかったら稲妻はエステルの脳天に直撃していた。

 クラウスという男は相手が女の子であっても容赦がないらしい。


『いや、この攻撃はわざと俺に当てたのか』


 つまり、女だからと加減はしないと警告の意味を含めている。それと同じ様に本気で掛かってこいと、次は当てると挑発しているのだ。

 それだけこの戦いに意味を置いているということでもある。

 ここからも容赦なく攻め込んで来る事だろう。

 そんな彼に対してエステルの取った行動は背を向けて逃げる事だった。


「距離を取れば振り出しに戻せるなどと思わない事だ!」


 ――戦技:ウィンドスラッシュ。


 魔力を帯びた剣から緑色の斬撃が放たれた。

 エステルは背後を確認する事なく進行方向を変える事で飛ぶ斬撃を躱す。


「それで避けたつもりか!ウィンドカッター!」


 背後からクラウスの声が聞えた直後、横を通り抜けて行った緑色の斬撃が四つに分裂して返って来た。


『ちょまっ⁉まっ⁉』


 左右上下に二つずつ別れる風の刃。

 それが突然、視界の端々から迫って来る光景に俺の脳は対処する事が出来ずにパニックを起こしかけていた。

 しかしエステルは違った。


 「……っ」


 前髪に隠れた紅い瞳で風の刃を確認した彼女は、身体の向きを変えて棺を盾にする事で一撃目を防ぎ、身体を投げ出す事で二撃目の風の刃を潜って回避した。

 だが、風の刃はまだ二つ残っている。

 宙に浮いた状態では避け切れない。

 

『エステル!』


 俺が悲鳴にも似た声を上げたその瞬間――。

 

 ゴウン!


 エステルはメイスを地面に叩き付ける事で倒れる身体を強引に持ち上げた。

 浮き上がった身体の下を風の刃が通過して行く。

 そしてそのまま横倒しに倒れる事で最後の風の刃も棺で見事に防いで見せた。


『…………す、すげぇ』


 異世界人であるエステルの身体能力の高さに俺は言葉を失っていた。

 しかしその代償は大きく、エステルが手にするメイスの柄は歪んでしまっている。

 無理もない。背負っている棺だけでもかなりの重量だ。そこにエステルの体重を加えた重みをたった一本の鉄で持ち上げるのだから曲がって当然と言えるだろう。寧ろよく折れなかったものだ。

 そして何よりも驚かされるのは、小さな身体に秘められたエステルの怪力だ。この異常な怪力がクラッシャーと恐れられる所以なのだろう。

 クラウスもエステルが起き上がるのを黙って見ている。


「初手のライトニングを避けるだけでなく、あれも防いで見せるか。ゴブリン討伐の件、嘘か真か半信半疑ではあったが多少なりと信憑性が帯びて来た。だが、そうでなくては挑んだ意味がない。小手調べはもう終わりだ。此処からは俺も本気で行くぞ」


 クラウスが右手を上げると同時にエステルも左手を上げた。

 突き出したエステルの左手に赤黒い血のような魔力光が伸びていく。


「ウィンドブラスト!」

 

 しかし先に魔法を発動させたのはクラウスだった。

 今度の魔法は緑色の魔力光を帯びた風の砲弾。それはエステルの手前に着弾して砂を巻き上げる。

 襲い掛かる暴風と砂礫からエステルは顔を護った。

 その直後、モクモクと上がる砂煙を突き抜けてクラウスが姿を現した。

 攻め込んで来るにせよ、余りにも早過ぎる。

 

『エステル!』


 敵が突然目の前に現れて慌てる俺とは違い、エステルは未だ目の前に現れたクラウスの姿を捉え切れていない。それでも危機を察したのか、振り下ろされる剣に対して彼女は前に身を乗り出した。


 ――ガキッ!


 頭を守る様に傾いた棺が剣の軌道を妨害する。

 それだけに止まらず、剣を引っ掻けたままクラウスの左手を押し込んでいた。

  

「チッ‼」


 クラウスが大きな舌打ちを鳴らした。

 前傾姿勢の倒れ込む様な突進など避けてしまえば恰好の的。しかし剣を引く事が出来ないクラウスにはそれが出来ない。そうなれば突撃して来る棺から身を守らなくてはならず、残された右手を使って棺の上部を抑えなくてはならない。しかもその行動がエステルが倒れるのを抑える形となっている。

 それはつまり、クラウスの腹部ががら空きであるということだ。


『行け!』


 エステルは大きくスタンスを広げてメイスを振るった。


「舐めるなああぁ‼」


 が、不安定だったエステルの重心が安定した事でクラウスが力任せに身体を押し下げて後退し、腹部を抉り上げる様な攻撃は彼の衣服の先を掠めて空を切った。

 

「……ふっ、惜しかったな。柄が曲がっていなければ危ういところだったぞ」


 クラウスは相変わらずの挑発的な態度を見せている。しかい今の彼からは最初あった余裕が感じられなかった。その証拠と言わんばかりに、呼吸を整える彼の頬からは冷や汗だと思われる雫が伝っている。

 一方エステルはというと、目の前のクラウスには目もくれず自分の手元をじっと見降ろしていた。表情は変わりないのにとても不思議そうな顔をしている様に見える。


『どうしたんだ?』


 エステルの様子がおかしい。

 だが、その正体を掴む時間は待ってはくれない様だ。


「何余所見をしている!ウィンドブラスト!」

 

 至近距離から放たれる風の砲弾。

 余所見をしていたエステルは当然避けられない。


『エステル!』


 空気の爆発と唸りを上げる強風にエステルの身体が僅かに浮いた。 

 吃驚して大丈夫なのかと心配するが、身体が浮くほどの衝撃を受けたにも変わらずエステルの表情に変化はなく、それでいて足もしっかり動いて着地している。


『あの魔法、見た目の割にダメージが低いのか』


 新たな発見だ。

 そう思ったのも束の間のこと。着地したばかりで身動きが取れないエステルにクラウスが突っ込んできた。

 

 ――戦技:疾風牙

 

 捨て身の突進に近しい強烈な一突きは重心が安定していないエステルを容易く吹き飛ばしてした。

 風を纏った剣に斬られてハラハラと舞い上がる白銀の髪。

 直撃したと思ってしまった俺はショックの余りに声が出ない。


「ちっ、完全に捉えたと思ったのだが。大した反射神経だ」


 地面に倒れているエステルを一瞥してクラウスが手元の剣を気にしている。

 彼の言葉を聞いてハッと我に返った俺がエステルを見ると、彼女は身体を起こして武器を構えていた。

 しかし消耗が激しい。

 棺を背負って十キロ近く走ってもケロッとしているエステルが肩で息をしている。

 その状態であるにも関わらず、エステルは呼吸を整える事無く前に出る事を選んだ。


「貴様は戦いの流れという物が分からないのか?今更俺の優勢が覆る事はない。その選択はもっと早く行使するべきだった。ライトニング」


 クラウスの言い分はもっともだ。

 スポーツ、ゲーム、そして交渉事。人と人が対面して何か物事を優位に進めたいと思う時、そこには必ず流れという物が存在する。クラウスが焦りと動揺を見せたあの時が流れを覆すチャンスだった。しかしエステルは何かに気を取られ、そのチャンスを不意にしてしまった。

 それでも俺はエステルの無事を願って応援するしかない。


『頑張れエステル!』


 エステルは手にするメイスで雷撃を防いだ。


「……っ」


 小さな爆発。それと同時に表情が歪む。

 それでもエステルの足が止まる事はない。

 クラウスは再度魔法を唱えた。


「ライトニング!」

 

 魔法が発動する際に出る光が先ほどよりも強い。


「あぐっ」


 電撃の威力も上がっていて、直撃したエステルが悲鳴を上げた。

 それでも尚、エステルの足は止まらない。


「ライトニング!」

 

「ぎぅっ、ぅ、ぅうううわあああああ!」


 魔法を耐え抜いたエステルは遂に己の武器が届く範囲まで接敵した。


「痛みは感じるだろうに大した根性だ。だが、白兵戦に持ち込んだからと言って俺よりも優位に」


 ドゴーン‼


 クラウスの言葉を遮る轟音が響いた。

 エステルが振り上げたメイスを力一杯叩き付けたのだ。その振り下ろしは俺の目では捉えられない程に速く、自ら手にするメイスにも多大なダメージを与える破壊力があった。


「貴様、本当に聖職者か⁉」


 カウンターを狙っていたクラウスは危機を察して踏み止まったおかげで難を逃れたが、その瞳は驚愕に見開かれている。

 無茶苦茶な攻撃ではあったがエステルは戦いの流れを奪取した。


「わあああ!」

 

 この好機を逃す手はない。

 エステルは一心不乱にクラウスへと襲い掛かる。


「くっ……」


 一瞬怯んだクラウスの防御が僅かに遅れた。

 しかしくの字に曲がってしまったメイスでは思うようにクラウスには届かず、彼の剣を引っ掻けて力任せに薙ぎ倒す。

 戦いが始まって初めてクラウスに土を付けた瞬間だった。


「この、馬鹿力がぁ!」


 クラウスは直ぐに立ち上がって攻め込むエステルに応戦する。


「あああああ!」


「おおおおお‼」


 二人の間で激しく火花が散る。

 手数の多いクラウスがあっという間に優勢に立つが、それでも何回かに一回繰り出されるエステルの反撃に彼の表情が凍り付く。

 最初の余裕も、優雅さも、今は何処にもない。

 数多の技術を理不尽な怪力でねじ伏せてくる女の子に勝つために彼は必死になっているのだ。

 エステルは俺が思っている以上にずっと強い。


「ぐぅぅっ‼」


 押し出す力の強いエステルに吹き飛ばされたクラウスが、何処かを痛めたのか苦悶の表情を浮かべて膝を付いて居る。

 これはチャンスだ。

 エステルは駆け足でクラウスに襲い掛かる。


『いけ!エステル!』

 

 だが、そう簡単に勝ち星を譲ってくれるはずがなかった。

 相手はエステルの所属するDクラスの大将。力任せに戦うしかないエステルとは比べ物にならない程の技術を習得している。


「やあ!」


 クラウスは振り下ろされるくの字のメイスを剣の中心で受け止めた。ガキッと鉄がぶつかり合ったその瞬間、クラウスは剣の持ち手を上げながら身体の向きを変えてエステルの攻撃を流して見せた。

 『あっ』と、声を上げた時にはもう遅い。

 武器を手放したクラウスの拳がエステルの腹部を捉えた。


「かはっ……」


 これは見事な反撃と言う他ない。

 力任せに武器を振るうだけでなく、重い物を背負っているエステルは、どうしても攻撃後の立て直しに時間が掛かる。空振りならば尚更のこと。その中でも特に立て直しに時間が掛かる振り落としを狙われた。

 ただでさえ満身創痍だったのに呼吸器官を狙われた以上、もう立てない。

 小さな呻き声を上げるエステルはクラウスに凭れ掛かる様にぐったりとしている。

 クラウスがくの字のメイスを奪おうとするがエステルは頑なに手放さなかった。


「武器を手放して負けを認めろ。貴様の実力は認めてやる」


 中腰のクラウスに支えられながら、エステルは嫌だと小さく首を振った。

 

「ならば仕方がない。女を相手に此処までする気はなかったが、まだ起動している以上は続いている」


 そう告げるとクラウスはエステルを押し出した。

 か細い呼吸を繰り返すエステルはそれでも頑なに後ろには倒れず、前屈みに膝をつく。この状態からエステルが勝てるビジョンが俺にはどうしても浮かばなかった。


『エステルもうやめよう。もう無理だって。そんな身体で戦える訳がない』


 そこでふと俺は教師の存在を思い出した


『おい!もう勝負は付いているだろ!何で止めないんだ!』


 怒りで魂を震わせながら女教師ユーティスを見た俺は愕然とした。

 口元に手を持って行き、まるで考えているかのような素振りを見せているが、歪んだ口元が隠しきれていない。

 ハッとした俺はもう一度エステルを見た。


(何でエステルだけこんなにボロボロなんだ?)


 クラウスの白い衣装も砂で汚れている。だけどそれは彼がエステルに吹き飛ばされた際に地面を転がった結果付いた汚れだ。当初話しを聞いていたバリア機能の適応外という事になる。それならば、エステルの衣服に付いて居る焦げ跡は何だというのだろう。


『まさかっ⁉……エステルが受け取った緊急自動障壁オートプロテクションシールドはバリア機能が発動していないのか』


 俺は胸騒ぎの正体を知ってしまった。

 あろう事か、生徒同士の争いに教師が手を加えていたのだ。

 教師という立場であれば生徒であるエステルとの関わりが薄くとも、短時間の内に調べる事は可能なはずだ。彼女が学んでいる技術やどの様な戦い方をするかなど、初めから分かっていたのだとしたら、今のエステルは何かしらの細工を施されている。

 思い返してみれば、それ以外にもおかしな事があった。

 ゴブリンに襲われていた時に使った光の魔法:フラッシュライト。あの時はもっと早く起動して発動していたと思う。それが事実だとしたらエステルが不思議そうに手元を見ていた理由にも納得がいく。


 ――どちらにせよ、これは公平な試合などではない。


 試合を止めなくてはエステルの命が危ない。


『やめろ!もうやめろ眼鏡!取り返しのつかない事になるぞ!』


 どれだけ叫んでも俺の声は彼等に届かない。


『おい!やめろって言ってんだ!くそ!ちょっとぐらい届けよ‼』


 視界を映し出す見えないカメラを動かす事しか出来ない俺は、怒りのままに視界というカメラをガタガタと揺らす事しか出来なかった。


「フッー!フッー!」


 顔を上げたエステルは鼻水と唾液を流しながらも、濁った瞳でクラウスを見上げていた。


「貴様の根性は高く評価してやる。意識は跳ぶかもしれないが、悪く思うな。纏え風よ、唸れ雷よ」


 クラウスは緑色の魔力光を纏う右手を剣に添えて再び風を纏わせた。

 剣が纏う風は次第に渦を巻き、舞い上げられた砂がバチバチと爆ぜて稲妻を発生させている。

 それは小さな砂嵐の様だ。


『エステル!降参だ!降参をするんだ!』


 並外れた肉体を持つ異世界の住民であるはずの彼女がどれだけタフなのかは分からない。だけどあんな物を受けて無事で済むはずが無い事だけは俺にも分かる。


「眠れ。貴様はよくやった」


「フヴッー!」


 剣が振り下ろされる直前にエステルは身体を起こしてクラウスに突撃した。

 その刹那の行動の結果――


「があああああああ!」


 クラウスが絶叫を上げた。

 正に決死の攻防と言えるだろう。

 エステルは、剣が棺を掠めて砂嵐と剣の速度を落としたところに手を伸ばし、クラウスを巻き込んで感電したのだ。


「ぁ……ぁぁ……ぁぁあああああ!」


 身体から煙を上げるクラウスは自らに活を入れるように声を張り上げて、胸に身体を預けるエステルの頭を押し返した。

 棺を下敷きに大の字で倒れ込むエステルはピクリとも動かない。


『おいしっかりしろ!エステル!おい!エステル!』


 俺は必死になってエステルを呼びかける。

 その頃には午後の授業のために早く移動してきた数人の野次馬が、クラウスの絶叫を聞きつけて覗きに来ていてた。煙を上げているだけのクラウスと黒く焦げ跡を付けながら動かないエステル。両者の姿に周囲が徐々にざわつき始めている。

 そんな中、ようやくクラウスは何かがおかしな事に気付いたような、そんな驚いた表情を浮かべていた。


「どう言う事だ。どういう事だこれはっ⁉」


 それは次第に怒りへと変わり、奥歯を強く噛む。


「何故!何故緊急自動障壁オートプロテクションシールドが起動していない!」


 野次馬の雑音を殺すほどのクラウスの怒声が競技場に響き渡った。

 だが、その声に動揺する周囲のざわめきが、何故か俺には小さく、背景音の様に聞こえ始めていた。

 次第に視界が歪み、暗転していく。

 抵抗する事も出来ないまま、俺の意識は暗闇の中に引き摺り込まれていった。


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 おまけ○○紹介


 ・緊急自動障壁オートプロテクションシールドの首飾り

 込めた魔力に相当して装備者への外敵負荷を肩代わりするバリアを張る。強力なダメージを受けた際にはその出力を大きく跳ね上げて激減させる。

その為、壊れやすい。


 ・魔法の指輪

 魔獣から採取できる魔力が籠った血石。六種類の色があり、色によって属性が異なる。これを加工し、刻印を刻む事で、修得していない魔法でも発動させる事が出来る。


 ・ライトニング

 電撃を飛ばす光の中級魔法。


 ・ウィンドカッター

 鎌鼬を飛ばす風の初級魔法。


 ・ウィンドブラスト

 圧縮した風の弾を発射する風の中級魔法。


 ・ウィンドスラッシュ。

 風の付与魔法を纏った『スラッシュ』の戦技。ウィンドカッターよりも大きな鎌鼬を飛ばす事が出来る。


 ・スラッシュ

 魔力によって刃の切れ味を上げた一閃を繰り出す初歩の戦技。剣だけに止まらず、槍や斧などの刃を持つ武器全てに適応できる。


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