第7話 アンデットの正体
(!?)
扉を開けた先から、異臭が一気に押し寄せてくる。部屋には数十にわたる死体が転がっていて、目の前の光景を見たルーナとクロエは茫然とした表情をして固まっていた。
「どうなっているの?」
「わからない。でもここにいる死体には、クエストの依頼を受けた人たちが含まれているのは確かだと思う」
鎧を着ている人やそこらへんに武器が落ちている。それだけでもクエストを受けた人の死体だとわかる。
(それにしても多い......)
ガイルさんから聞いている情報でもここまでの死体があるとは思いもしなかった。それに加えて、冒険者らしい人物じゃない人も数人含まれている。
こんなに人が死んでいるのになんでランドリアではおおやけになっていないんだ? ここまでの死人が出ているなら国が動いてもおかしくない。それなのに冒険者ギルドしか動かないということは何かカラクリがあるのかもしれない......。
「一旦、あたりを探索しよう」
「えぇ」
「うん」
三人で死体を避けつつ、部屋の内部を探索し始める。だが、あたり一面が死体だらけでありつつ異臭がきつすぎて集中力が散漫してしまう。そんな中、クロエが床を指さして
「ここ、何かおかしくない?」
言われるがままその場に向かうと、クロエの言う通り指さされた一面だけ空気が流れているのが分かる。
「二人ともちょっと離れていて」
二人がこの場所から少し距離をとった後、俺は
「......。行こうか」
そう言って、三人で階段を下りていく。最初は異臭が徐々に無くなっていったが、それに比例していくごとに空気が重くなっていた。そして、先程まで感じることすらできなかった殺気も空気が重く感じていくのと同時にのしかかってくる。
「二人とも大丈夫?」
「大丈夫よ」
「私も大丈夫」
二人とも大丈夫とは言っているが、表情が強張っているのが見て分かる。
(ここは本当になんなんだ?)
そこから数分歩いたところでやっと階段を下りきり、目の前にある一つの扉を開ける。そこには老人の狐人族が椅子に座ってこちらを見ていた。すると、なぜか涙を流し始めた。その光景を見て、第一声に声を上げたのはクロエだった。
「クロエ?」
「え、でも......」
「クーちゃん?」
クロエは目の前の光景が信じられないような表情をしながら、瞬きを一切せず一点集中していた。
「ごめん。でもこの人って......」
「誰か知っているのか?」
「この人は......。一族の中で、最強とうたわれている魔法師。いや、英雄とも言われていたわ。でもこの人ははるか昔に死んでいるはず」
「死んでいるって、今生きているじゃないか」
クロエの言う通りならおかしい。死んでいる人を蘇らせることはできる。それこそ俺が使える死者蘇生がその例だ。でも、死者蘇生で蘇らせた死体は無表情で命令されて動くことが出来る。だが、今目の前にいる狐人族の人は涙を流していたことから、無表情とはいいがたかった。
「わからないよ。でもなんでこんな場所にこの人が......」
その時、狐人族の人が話しかけてきた。
「そこのお嬢さん、シャーリック家の人だよね?」
「え? はい。そうです」
「今から言うことをきちんと聞きなさい。私が平常心を保てる間に」
平常心が保てるってどう言うことだ? 俺が使える死者蘇生とは違う方法で蘇ったってことなのか? だとしたら......。
「なんで生きているのですか?」
「いいから聞きなさい!!」
そして淡々と狐人族の人が話し始めた。
「あまり時間もないから本題に入らさせてもらう。私は魔族の魔法によって蘇ってしまった。だが、意識があるってことはわかるよな?」
「......」
「簡単に言えば、死者蘇生の強化魔法を使える魔族が現れたってことだ。こう言えば意味が分かるよね?」
「もしかして!!」
ここでやっと、ルッツから言われたことを思い出した。あの時は、もう少し先になるだろうと軽く流してしまったが、今目の前に成功している人物が居るってことは。それを考えるだけでゾッとしてしまった。
「私もまだ完成版と言うわけではない。だからこのことを伝えて来てくれ。頼む......」
そう言いきった瞬間、老人に異変が起きた。
「逃げろ......。頼む。お前たちを殺したくない」
「「「え?」」」
すると、老人がこちらへ徐々に近づいて、一瞬で目の前から消え去った。そして、俺の左腹部に鈍痛が走る。
「!!」
俺はすぐさま左側に
「は?」
意味が分からない。避けれるタイミングではなかったはず。それなのになんで......。
「頼む。逃げてくれ。俺はお前たちを殺したくない。ましてや同族なんて......」
「だったら攻撃を辞めてください。俺たちもあなたを殺したくはない」
「それができないんだ。意識とは関係なく体が勝手に動くんだ」
「......。クソ!!」
どうすればいいんだ......。そう考えている時、もう一度老人が目の前から消え去った。
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