第6話 転移先


「ここは......?」


 あたり一面、暗くて見えない状況になっていた。


(明かりが欲しい......)


 だけどどうすればいいんだ? 今の状況でアンデットに攻め込まれても対処するのが確実に遅れる。かと言って、光魔法は使えない......。今使える魔法の中で、唯一安全に明かりが出せるのは火玉ファイアーボールだけど、もし今いるところがガスで充満していたら?


 そう考えると何も行動をとることが出来なかった。


(クソ!!)


 その時、奥の方から物音が聞こえた。そしてその音が徐々にこちらに近づいてくる。


(どうすればいい......?)


 後ろに一旦後退しつつ、歩いてくる何者かから距離を取ると、誰かとぶつかった。


「え? 誰?」

「その声......。ルーナか?」

「え、メイソン!?」

「あぁ」


 すると、ルーナが勢いよく俺に抱き着いてきた。


「こ、怖かったよぉ~」

「あ、ごめんな」


 だけど何者かの音が徐々に近づいてきているのが分かる。


「ルーナ!! ライトを使ってくれ」

「え!? わ、わかった」


 そして、すぐさまルーナがライトを使うと、あたり一面が軽く見えるようになった。


(これである程度戦える)


 そう思いながら音を鳴らしながらこちらに近づいてくる何者かと戦闘する体制を取ろうとするが、ルーナがくっ付いている状況で思うように体制をとることが出来なかった。そのためルーナに


「ちょっと離れてくれる?」

「む、無理!!」

「じゃあ、ここにきて」

「う、うん」


 そう言って、俺の右胸に抱き着くようにさせて左手は使えるようにした。そしてそこから数分も経たないで音がもう目の前まで来ているというのが分かった。


「近いね......」

「あぁ」


 お互いが身構えながら何者かが目の前に来るのを待つと、聞き覚えのある声が聞こえた。


「やっと追いついた!!」

「「え!?」」


 今まで何度も聞いてきた声が目の前から聞こえてきた。


「なんで徐々に距離を取っていくかなぁ......」

「ク、クロエ......?」

「うんそうだよ?」

「なんで俺たちの位置が分かったんだ?」


 そう、ルーナと合流するまであたり一面が真っ暗で明かり一つない状態。そんな中俺に近づいてきた。そして、ルーナと合流してライトを使ってくれたが、俺とルーナが近づいてやっとわかる程の明かり。そんな中でなんでわかったんだ?


「私の種族を忘れたの?」

「「あ!!」」 


 それを言われて納得する。狐人族なら耳も普通の人間の数倍は良いはずだ。それなら俺たちの声などを頼りにこちらに近づいてきてもおかしくない。


「それでルーちゃんはなんでメイソンに抱き着いているの? 約束忘れたの?」

「ち、違うよ!! でもこ、怖かったんだもん......」

「そう。まあいいけど」

「ごめん」


 約束ってなんだ? 俺知らないけど......。もしかして、俺だけ仲間外れにされている系か? そうだったら悲しいな......。 


「それよりも、早くここから脱出しなくちゃだよ」

「あぁそうだな」


 クロエの言う通り、この場はから抜け出さなくちゃいけない。はっきり言ってこの場は危なすぎる。あたり一面見えない状況であり、尚且つどこにいるかすらわからない状況。そんな状況でアンデットと戦っても勝てる保証はない。


「クロエ、今いる場所ってガスとかが充満してたりするか?」

「しないと思うけど。でも狐人族って耳が良いだけで、においまではわからないわよ」

「そ、そうだよな」


 一か八か火玉ファイアーボールを使うっていうのも一つの選択肢ではあるが、

もしそれで爆発でもしたら三人とも無事では済まない。


(どうすればいいんだ......)


「だったら風切エア・カッターを使えば?」

「え?」

「今充満しているかもしれない気体をこの場から無くせば火玉ファイアーボールを使えるんだから、まず風切エア・カッターで無くしてから使えばいいじゃない」

「あ~」


 言われてみればそうだ。その考えには至らなかった。使えないって考えじゃなく、使えるようにするって考えをすればよかった。


 俺はすぐさま風切エア・カッターを使い、あたり一面の空気を換えたのち、火玉ファイアーボールを使って明かりを照らした。するとそこは、正方形の部屋になっていた。


「なんの部屋なんだ?」

「わからない。でも普通じゃないっていうのはわかるわね」

「あぁ」


 クロエの言う通り、この部屋が普通じゃないのは一目瞭然だ。何もない家具。そしてあたり一面が真っ白。奥には扉が一つだけある部屋になっていた。


「まずはこの部屋から出ようか」

「えぇ」

「うん」


 そう言って扉の方へ全員で歩いていき、扉に手をかけようとした時、ルーナが俺とクロエの手を握りその場で立ち止まった。


「ちょ、ちょっと待って」

「どうした?」

「いや、一旦深呼吸をさせてほしいなって思って」

「あぁ」


 そして、ルーナが何回か深呼吸をして、アイコンタクトで扉を開けて良い合図を示してきたので扉を開けた。






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