第5話 トリガー
すると、ルーナがビクッと体を震わせながら俺の腕にがっしりとくっ付いてきた。
(ちょっとルーナさん!?)
「ルーナ......」
「こ、怖くないもん......。怖くはないけど、ないけどさ!!」
「あ~うん」
今の会話を聞いていたクロエはなぜかひらめいたって表情になりながら、ルーナがくっ付いている腕とは逆の腕に抱き着いてくる。
「わ、私も怖い」
「嘘をつくな」
俺は、耳に当たらないようにクロエの頭を軽く叩く。その瞬間、俺の手を掴んで、頭の上において自ら撫で始めた。
「えへへ~」
「え? ちょっとクロエさん?」
「何? いま、大事なところだから話しかけないで」
「あ、はい」
なんなんだ今の状況は......。左側ではルーナが怯えながら上目遣いでこちらを見て来ていて、右側ではクロエが自由気ままに俺の手を使いながらクロエ自身の頭を撫でている。
(ルーナはともかく、クロエは今陥っていることを理解しているのか?)
その時、先程からしていた音が止まった。
「えっと、メイソン?」
「あぁ。止まったな」
そして俺がそっと左手を戻すと、クロエはシュンとした表情になった。そして、俺の方を向きながらボソッと言う。
「あ......」
「......。ちょっとあの部屋に行ってくる」
「ま、待って!!」
そう言いながらルーナが右腕にがっしりとしがみついてくる。先程からほのかにルーナやクロエから甘い香りが来ていたが、より匂いが増した。それに加えて、右腕によりいっそう柔らかい感触がやってくる。
(大丈夫。俺は大丈夫)
自分に言い聞かせ、平常心を保つように努力しつつルーナに
「どうした?」
「私も一緒に行く」
「じゃあ私も行くわ」
「えっと、クロエはともかくルーナは大丈夫なのか? 怖かったらここにいてもいいんだぞ?」
先ほどの仕草から、クロエは怖がっていないがルーナは違う。誰にだって怖いものはある。だからこそ無理に着いてくる意味も無いと思った。
「大丈夫......。それにメイソンが危ない目に合う方が嫌だし......」
「そっか。じゃあ行こうか」
俺がまず布団から出ると、すぐさまルーナも続いて俺の腕にくっついてくる。そしてクロエも続くように俺にくっつく。
(絶対にクロエは俺の表情を見ながら遊んでいるだろ!!)
嬉しい、嬉しいけどそれを今やらなくてもよくないか? ルーナ見ろよ。さっきからずっと怯えながら俺の事を見てきているじゃないか。こんなにも二人に対応が変わるとは思いもしなかった。
「はぁ~。じゃあ行くよ」
「う、うん......」
「えぇ」
深呼吸を入れて、部屋の扉を開ける。すると先程、音がしていた部屋の方向から寒気がやってきた。それは、ルーナとクロエの感じているようで、クロエも先程までお茶らけていた雰囲気から一変して、真剣な表情に変わった。
俺たちは徐々に寒気を感じている部屋へ向かい、入り口のドアに到着する。
(あれ? 思っていたよりも......)
そう思いながらもルーナとクロエの方を向き、互いにアイコンタクトを済ませた後、扉を開けた。
そこは先程まで感じていた寒気が無く、いたって普通の部屋であった。
(は、どうなっているんだ?)
何も手掛かりない......。そこで、一瞬もしかして俺たちの勘違いだった? と思う。
(いや、そんなことあり得ない)
俺だけならともかく、ルーナやクロエも同じく感じていたはずだから。だから、俺たちは部屋の中を隅々まで調べ始めた。だが、何も得られる情報が無かった。
「ねぇ、私たちの勘違いだったの?」
「いや、そんなことないはずだ」
「そうよ。もし勘違いだったらさっきまで音は何だったのよ」
クロエの言う通りだ。俺も勘違いかと一瞬考えたが、先程までしていた音が何だったのか説明がつかない。
(だけど、手掛かりがない......)
そこでふとこの屋敷について、ギルドマスターから言われたことを思い出す。
【何かのトリガーを達せれば、アンデットが現れると】
でも、トリガーってなんだよ。さっきから全員でこの部屋を隅々まで調べているけど、トリガーっぽいものなんて一つも見当たらなかった。それなのに、今からトリガーを見つけるなんて無理だろ......。
そう思った瞬間、この部屋に初めて入ったことを思い出して、あの時魔力を感じた壁に近づく。すると、そこには目を凝視してやっとわかる程度の金属片が落ちているのを発見した。
そこでハッと思う。
(もしここがさっきから音のしていた場所だとしていたら)
俺は金属片が落ちている近くの壁に向かって、魔力を注ぐ。
「え? なにしているの?」
「そうよ! メイソン何しているの?」
二人が驚きながら俺に尋ねてきたが、すでに遅かった。壁がゆがみ始めて、俺は壁に飲み込まれるように中へ引きずり込まれていく。
「ルーナ、クロエ!」
「「メイソン!!」
手を伸ばしながらルーナとクロエの手を掴もうとした時には、体全体が壁に飲み込まれて行き、先程までいた部屋から別の場所に移動させられていった。
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