第8話 英雄としての一歩


 またしても一瞬のうちに俺の背後を取ってきて、攻撃を仕掛けて来た。それをギリギリのところで避けようとするが、一歩遅れて軽く攻撃を受ける。


「どうなっているんだ......」


 目の前から一瞬にして消えて距離を詰めてきたと思ったら、次の瞬間にはまた俺から距離を取られている。本当にどのようなカラクリなのかがわからない。


「クロエ、この人はどんな魔法を使う人なんだ?」

「バカルさんは空間転移を使う人なの」

「は? 転移魔法って」


 そんな魔法が使える人が本当にいるのか。転移魔法って言えば、神話にすら出てくる魔法の一つだ。だが、今までの行動を思い返してみれば、一瞬に消えたりするのも空間転移と言われれば納得する。


(でも、そしたら俺は勝てるのか?)


 はっきり言って、この人は俺みたいな英雄とは違い、真の英雄だ。もしくは神話の人物に匹敵する。そんな人に略奪を使ったとしても空間転移を使って避けてしまう可能性が高い。


「クロエ、少しだけ時間を稼いでもらうことはできるか?」

「え? 良いけど」

「助かる。ルーナ、ちょっとこっちに来て」

「う、うん?」


 その時、バカルさんが俺とルーナの間に転移してきて、こちらに攻撃を仕掛けてくるが、今回は目の前に現れてくれたことからうまくさばくことが出来た。そして、引き下がろうとした瞬間を見逃さず、クロエがバカルさんに攻撃を仕掛ける。


「今しか時間は稼げないからね」

「あぁ」


 そこで、クロエから一旦距離を取ったところで話始める。


「バカルさんが攻撃してきた瞬間、守護プロテクトで守ってほしい。その瞬間に俺がバカルさんからスキルを奪うから」

「で、でも攻撃が来る場所なんてわからないよ」

「無責任なことを言うようだが、信じている。強いて言えば全方位に注意をしていればルーナなら何とかなると思う」

「うん。わかった」


 話が終わったところで真っ先にクロエの元に戻り、位置を入れ替わる。はっきり言って、今の状況で勝てる未来は見えない。魔剣は屋敷に置いてきているし、クロエの武器も同様だ。だからこそ、さっきの作戦で決めきらなくてはいけない。


 そして、一度目の攻撃が俺にやってきた。その瞬間ルーナが魔法を使うが、バカルさんが転移してきた方向とは真逆の方に使ってしまい、脇腹に激痛が走る。


「ぅぅ......」

「「メイソン大丈夫!?」」

「大丈夫だから続けよう」


 すぐさま自動回復オート・ヒールを使うが、二度目、三度目と攻撃を受けてしまい、回復が追い付かない。


「はぁはぁ」


 すでに肩で息をしている状態であった俺を見たルーナやクロエは、すぐにでもこちらに近寄ってきそうな表情をしていた。そしてこちらに近寄ってこようとしていたのを止める。


「続けよう」

「「でもこのままじゃメイソンが死んじゃう!!」」

「それでもだ。結局バカルさんを止めない限り俺たちはここから出る方法がわからないままだ。だったら戦うしかない」

「「......」」


 本当に情けない。二人と行動するようになって、人一倍この二人には不安にさせたくないと思っていた。だが、今の状況は何だ? 二人を不安にさせているのは、紛れもなく俺の力不足だ。


 それに加えて、俺は何も行動することが出来ず、結局はルーナだよりになって負担をかけている。


(なんで俺はこんなに弱いんだ......)


 自分自身に嫌気が指す。そう思っていた瞬間、バカルさんが俺にまたしても攻撃をしてくる。


「グハ......」


 まだ、バカルさんが身体強化のみしか使えなくて本当に助かった。もし、攻撃魔法でも使ってきたりしたらとっくに死んでいたに違いない。


 そこでふと思う。もし、バカルさんを蘇らせた魔法が完成したらと考えると、ゾッとする。その後も、さばききることが出来ず、何度も攻撃を受ける。そして意識がもうろうとして、後一撃でも受けたら意識が飛ぶという瞬間の時、バカルさんが俺に攻撃を仕掛けてきた。その時、ルーナが俺に全方位の守護プロテクトを使ってくれて、一瞬バカルさんが怯む。


 それを俺は見逃さず、略奪を使用する。


・空間転移(小)

・身体強化(大)


 その瞬間、バカルさんから先程まで感じていた殺気が無くなっていくのが感じ取れた。


「殺ってくれ。頼む」

「.......」


 ハッキリ言ってクロエと同種の人物なんて殺したくない。ましてや、バカルさんが悪い人間ではなく、俺たちに寄り添ってくれた人だ。そんな人を殺すなんて......。


「君が病むことじゃない。むしろ感謝している。だから頼む」

「わ、分かりました」


 俺がバカルさんに対して波動拳を使い、身体を貫通させた。その瞬間、バカルさんの体が徐々に崩れ落ちていった。


「本当に助けてくれてありがとう。君のスキルはわからないが、君なら私が目指していた英雄になれるかもしれない。いや、俺にとってはすでに英雄だよ」

「え?」

「私は見ず知らずの人を殺すことなんてしたくなかった。だから止めてくれてありがとう。そしてシャーリック家のお嬢さん......」


 バカルさんの最後言おうとした言葉が聞こえないまま、消え去ってしまった。その瞬間、一斉に屋敷へ転移させられた。

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