第2話 立場


「メイソン、ルーナ様やクロエ様はどう見られている?」


 ガイルさんから問われて、ルーナとクロエを一瞬見た後、頭に浮かんだ言葉を言う。


「王族......」

「そうだ。じゃあメイソンは何だ?」

「え?」

「え、じゃないよ。お前は周りからどう見られているかって聞いているんだ」

「......」


 一般人? いや、流石にそれはないだろう。じゃあなんだ? 冒険者か? それは当たり前すぎて.......あ!。


「Aランク冒険者?」

「そうじゃないだろ。お前はAランク冒険者として見られているのか? 違うだろ?」


 いや、実際にはAランク冒険者だしそう思われていてもおかしくないよな? それか......。


「英雄」

「そうだ。お前はもうそこらへんにいる冒険者じゃない。ランドリアやエルフ国、狐人国の英雄になっているんじゃないのか?」

「......」


 ガイルさんの言う通りだ。全員に言われていなくても一部の人からは英雄として尊敬されている。そんな奴がおかしな行動や軽率な行動をしたら誰だって、不快な気分になるし、悲しくなる。


「だから、今後は行動一つ一つに注意を払えよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、本題に戻ろうか」


 そう言って、複数の紙をテーブルの上においてくれた。それを俺たち三人はじっくりと目を通す。すると、一枚の紙に目が言ってしまう。その時、ガイルさんがその紙を隠すように戻した。


「悪い、一枚変な紙が混ざっていたな」

「いえ、それよりもその物件を見せてもらいたいのですが」

「いやこの物件はちょっと」

「お願いします」


 頭を下げて頼むと、渋々先程隠した物件の紙を見せてくれた。


「これの何がダメなの?」

「そうね。最低限大きな家で、物価も安い。良い家じゃない」


 そう。ルーナやクロエが言う通りこの物件は非常によさそうである。先程チラッと見えただけでも俺たちが買えそうな金額であり、家も大きい。悪い家とは思えなかった。


「いやそれが......」

「それが何なの?」

「この家にはアンデットがいると噂されていてな」

「「「え?」」」


 アンデットが住んでいる? そんなことあり得るのか? 離れとは行っても、ランドリア内の敷地にある家だ。


「それは本当なの? 嘘じゃなくて? だって、もしアンデットが住んでいたらとっくに危ない状況に陥っているはずだけど......」

「そうね。流石にルーちゃんが言う通り、私も嘘だとしか思えない」


 二人の言う通り、俺も事実とは異なるとしか思えなかった。もしこの物件にアンデットが潜んでいるなら、流石に被害が出ているはずだ。それに冒険者や宮廷騎士たちが家に入ってアンデットを討伐していてもおかしくない。


「アンデットの討伐にはいかなかったのですか?」

「言ったさ。でもいなかったんだ」


 その言葉を聞いて、ルーナやクロエはホッとした表情になりながら 


「じゃあ噂程度ってことなのね」

「よかった」


 すると、ガイルさんは辺りをキョロキョロした後、話し始めた。


「そう単純な話でもないんだ」

「え? どういうこと?」

「簡単に言えば、この物件に住んだ人にしか見えないアンデットがいるらしいんだ」

「だったら強い冒険者の誰かがこの家に住めばいいんじゃないですか?」


 そう、誰かがここに住んでアンデットを見つけ次第倒せばいいはずだ。


「それが、物件に住むだけじゃダメんだ。何かのトリガーが無くちゃアンデットが出てこないらしくてな」

「は?」


 何かのトリガーってなんだよ!! 


「だから進めたりしないし、何だったら住まない方がいいとすら思っている」

「......」


 ガイルさんが言う通り、安全性が無いのなら住まない方がいいのかもしれない。そう思い、俺が断ろうとした時、ルーナが物件の紙を手に取り


「私はこの場所で住んでみたいわ」

「「え?」」


 その言葉を聞き、俺とクロエは唖然とする。


「ルーちゃんってもしかしてオカルト好き?」

「まじで......」


 別に人の好き嫌いを言うつもりはないが、流石にルーナの好みだけで住むわけにはいかない。ルーナは好きであっても、クロエは好きじゃないかもしれない。だが、俺とクロエが考えていたのとは違い、ルーナは両手を横に振りながら


「違う違う!! もし、本当にアンデットが住んでいるなら私たちが退治してあげようよ。そうすれば住民のみんなも安心できるしね。それにはっきり言って私たちが最適だと思うの」

「最適って」

「だって、私たちぐらい強いパーティってこんなところに住みたいと言う人が居ないじゃない? だったら私たちがやるしかないかなって」


(あ~)


 ルーナの言うのも一理ある。俺たちより強いパーティはお金も持っているはずだから、もっといいところに住んでいるに違いない。逆に言えば、俺たちより弱いパーティはアンデットを倒せるとは限らないからこの家には住まない。


 結局この家は解決されることなくずっとあり続けるのかもしれない。なら、ルーナの言う通り、俺たちが住むのもありかもしれない。


「まあ、ルーちゃんがそう言うならいいけど、メイソンはどうなの?」

「俺はいいよ」

「じゃあ決まりね!!」


 三人でこの家に住むことが決まったところで、ガイルさんが唖然とした表情になっていた。


「本当にいいのか? メイソンたちならもっといいところも選べるのに」

「いいんですよ。それに、もう三人で決まったことなので」

「そうか。じゃあ今から案内しよう」

「ありがとうございます」


 その後、全員で来賓室を後にして、いわくつき物件のところへ向かった。



 この時の俺たちは、本当の意味でアンデットがいるとは信じてはおらず、物件で何が起こるのか予想もしていなかった。

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