2章 勇者と英雄

第1話 勇者視点

 ギルドで座っていると、周りに居る冒険者たちがある噂を話していた。


「は? どういうことだよ!」


 俺はギルドの机を思い切り叩くと、あたりにいた冒険者たちが俺の事を怯えながら見て来た。


(こっち見てくんじゃねーよ)


 無性にイライラして、冒険者たちのことを睨む。すると、冒険者たちはそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。


(雑魚がしゃしゃんじゃねーよ)


 俺は勇者なんだぞ? お前たちみたいに使い捨ての駒じゃねーんだよ。


(それにしてもメイソンのやろう......)


 狐獣国を救っただって? エルフの国を救っただって? あいつが? そんなことあり得るわけがない。


「でも......」


 でももし、あいつが本当に狐獣国やエルフの国を救ったとしたら?


(絶対に許さねぇ)


 追放した時、俺が言ったことをメイソンは破りやがった。なんで俺に迷惑をかけるんだ。


(雑魚のくせによ)


 そう、あいつはただの雑魚だ。メイソンごときが国を救えるわけがない。それも二つもだ。絶対にありえない。あり得るはずがない。


 たかが、荷物しか持てなかった雑魚が国を救うなんて......。だが、そこでふとメイソンを追放した時のことを思い出す。


(モンスターを弱らせて倒していたじゃないか!)


 あの言葉が本当なら?


 ここ最近思い始めてきた。あいつを追放してから、モンスターが強くなったかもしれない。それは、シャイルやミロだって言っていた。


 だが、そんなことが可能なのか? 今まで聞いたことが無い。モンスターを弱らせるなんて。


 その時、後ろから師匠であるリーフさんに話しかけられる。


「ロンド、そろそろパーティを復活させてもいいんじゃねーか?」

「そ、そうですかね?」

「あぁ」


 現状、個々で実力を上げるため勇者パーティは一旦解散している。だが、リーフさんがそう言うなら、俺もリーフさんに認められるぐらいの実力が付いたのかもしれないし、シャイルやミロだって今まで以上に強くなっているに決まっている。


「では、明日にでも活動を再開しますね」

「それがいいさ。後、お前は追放したロンドってやつが憎くねーのか?」

「え?」


 リーフさんからロンドと言う単語を聞いて驚く。


(あいつが憎くないのかって?)


 憎いに決まっているじゃないか。追放した奴が、他の場所で活躍していたら誰だってうざいに決まっている。それに加えて、今じゃ英雄と言われてきている。あんな雑魚がだ。


「憎いです」


 俺がそう答えると、リーフさんはニヤッと笑いながら言った。


「だったら、見返してやろうぜ」

「見返す?」

「あぁ、ここからだんだんメイソンが活躍して行ったら、お前の評判はどうなる?」

「どうって」

「まあ簡単に言えば、英雄を追放した無能の勇者として言われるだろう。お前はそれでいいのか?」


(......)


 良いわけねーだろうが。俺が無能だって? 世界で唯一存在している勇者の俺が?

そんなことあっていいわけがない。俺は人族最強なんだぞ? それをあんな雑魚のせいで.......!


「どうすればいいですか?」

「タイマンを張ればいい」

「一対一ですか」


 メイソンと戦うか。それもいいかもしれない。雑魚にはきちんと教えてやらなくちゃいけないしな。


「あぁ。そしてお前が勝てば周りはどうなる?」

「どうって......! 周りはメイソンを英雄とは呼ばなくなる」

「そう! だからお前がメイソンを叩きのめせばいいんだ」

「そうですね!」


 そうだ。あいつを潰せば今まで悩んでいたことも解決する。なんでこんな簡単なことも思い浮かばなかったんだろう。


「だったら、今からパーティを再会して、あいつらを見返さなくちゃだな」

「はい! ありがとうございます」


 俺はそう言って、リーフさんと別れてシャイルとミロの元へ向かった。



 リーフさんと会話してから二日が経ち、勇者パーティを再会した。


「それで、ここからどうするんだ?」

「それならもう決まっている」

「決まっている?」


 二人は首を傾げながら俺の顔を見て来ていたので、ニヤッと笑いながら言った。


「あいつが受けるクエストに俺も受ける。そして、あいつに実力を見せつければいいんだ」


 リーフさんが言う通り、一対一で戦ったら多分俺にも非が出てきてしまうかもしれない。だが、あいつが倒そうとしていたモンスターを俺たちが倒したらどうなる? メイソンが無能と言われて、俺は今まで通りまつられるに決まっている。


 すると、二人は少し異様な空気を発しながら言った。


「わ、分かった」

「そうですね」

「あぁ」


 こうして、メイソンがギルドへ入って行くのを待った。数日ほど待ち、ついにギルドへ入って行くのを目撃する。


やっとだ。やっとこの気持ちからおさらばできる。


(お前が悪いんだからな)


 俺はそう思いながら、メイソンたちがギルドに入って行くのと同時に、俺たちも中へ入って行った。



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