1章 スキルの真の意味

第1話 勇者視点


 メイソンを追放してから初めてのクエスト。


「ゴブリンは任せた」


 俺は、勇者パーティの一人である戦士---シャルイと賢者であるミロへ命令をした。すると、二人は頷きながらホブゴブリンの方へ向かって行った。


 俺はシャイルとミロがゴブリンを倒し始めて道ができたところを進み、ボスであるホブゴブリンと対面した。


「グギャギャ」


 ホブゴブリンは俺に向かってこん棒を振りかざしてきた。


(!?)


 いつも倒しているモンスターより早い......。一瞬避けるのが遅れて、こん棒が地面にぶつかり、その砂煙をもろに食らう。


(み、見えない)


 どこだ? どこにいる? 正々堂々正面から戦え! そう思いながら、ホブゴブリンがどこから攻撃を仕掛けてくるかを冷静に待つ。すると、後ろからホブゴブリンではなく、ゴブリンが数体俺に向かって攻撃をしてきた。


(は?) 


 ギリギリのところでゴブリンの攻撃をかわして、一体のゴブリンを倒した。だが、少し距離を取られたところから、ゴブリンが弓を放ってきて、矢が腕にかすった。


(ゴブリンがあの速度で矢を撃ってくるなんて聞いていないぞ)


 今まで、ゴブリンが弓を持っていたのは知っていたが、ここまで早く矢を放ってくる奴なんていなかった。


(どうなっているんだよ!)


 俺は一旦この場から離れて、シャイルとミロの元へ戻った。だが、ゴブリンの数が全然減っていなくて、大声を上げてしまう。


「おい、どうなっているんだよ!」

「そ、そう言われても」

「そうですよ......」


 ゴブリンを倒すのがお前たちの仕事だろ! ゴブリンすらまともに倒せないってどうなっているんだよ。


 その後も、防戦一方の戦いを繰り広げ、結局ゴブリンたちから逃げるようにランドリアへ戻っていった。


(クソ! なんでゴブリンごときにこの俺様が逃げなくちゃいけないんだよ!)



 ランドリアへ戻り、宿屋で二人と話していると、ミロが言った。


「なんか今日のゴブリンたち、強くなかったでしたか?」

「ミロもそう思ったか?」


 なぜか二人は意気投合しながら話していた。


「強いから何だよ! 俺たちは勇者パーティであって、ゴブリンごときに負けていいわけじゃねーんだぞ!」

「そ、それはそうですが」

「でもよ、ロンドは戦っていて感じなかったか?」

「......」


 感じなかったわけじゃない。だが、ゴブリンごときに負けていい理由にはならない。俺たちは魔王を倒す存在なのだから。


「もしかして、メイソンが抜けたから?」

「あ~。あいつなんやかんや雑魚モンスターを倒してくれていたもんな」


 その言葉を聞いて、睨みつけながら低い声で言ってしまった。

 

「は? お前たち本気で言っているのか?」

「......。ごめんなさい」

「悪かったよ」


 そうだ。あいつが抜けたからゴブリンが強くなったと感じたわけじゃない。たまたま今回戦ったゴブリンが強かっただけだ。


(そうに決まっている......)



 俺は二人に休暇日という名目で、個々の実力を上げる日を設けた。これで、最低限雑魚モンスターには勝てるぐらいの実力をつけてもらわなくちゃ。


(絶対にメイソンが消えてから敵が強くなったわけじゃない)


 だが、ふと頭によぎる。もし、あいつの言う通り他の仕事でもいいから残ってもらっていれば。


「いや、あり得ない」


 そう、俺は勇者なんだ。あんな雑魚に頼るわけがない。そして、俺は師匠であるリーフさんに剣術の練習を教わろうと思い、向かった。師匠の家に着くと


「よぉロンド。どうした?」

「いや、剣術を教えてもらおうと思いまして」

「あぁ~。だったら実践をやった方がいいぞ」

「実践はすでに何度もやっています」


 すると、リーフさんはため息を吐きながら言った。


「まあ俺の言うことを聞いてみな。冒険者に登録したら、金ももらえるしな」

「.......。分かりました」


(なんで俺が、メイソンと一緒の冒険者なんかに)


 そう思いながら師匠とギルドへ向かうと、ばったりと会ってしまった。


(チッ)


 雑魚の顔なんて見たくない。だから、罵倒をしてしまう。だが、事実なんだから、俺は間違っていない。逆に現実を見せてあげているんだから、感謝してほしいぐらいだ。すると、隣にいるフードを被った女性が俺に文句を言ってきた。


(たかが、冒険者が俺に指図すんなよ)


 ついでにこの女性にも罵倒をして、俺はギルドへ入って行ってクエストを受注した。


 メイソンのやろう、なんであんな嬉しそうな顔していたんだよ。雑魚は雑魚らしい顔していろよ。それに、なんでメイソンごときにパーティメンバーがいるんだよ。


 そう思ったら、無性に腹が立ってきた。

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