第12話 古代遺跡ライフ
「うーん、なるほど……。ルーン文字はそれ自体が意味を持つ文字だから、普通の言語と違って長文を作るのは難しいんだ……」
古代語で書かれた本を読みながら、誰に聞かせるでもなくそう呟く私。そばには様々なジャンルの魔導書がうずたかく積まれている。
「うーっ、疲れたー! そろそろ休憩しようかな」
深呼吸をしながら背伸びで身体をほぐしてやる。肩にかかった髪の毛がちょっとだけ鬱陶しい。
「だいぶ伸びたし、そろそろ結ぶことを視野に入れるべきか……」
後ろ髪を弄りながら独り呟く。私達が古代遺跡で生活するようになってから、そろそろ三ヶ月が過ぎようとしていた。
✳︎
この三ヶ月で、私達の生活は割と軌道に乗っていた。
私は基本的に魔導書を読む毎日だ。はじめのうちはほとんど読めなかった魔導書も、簡単なものから少しずつ難易度を上げていくうちにだいぶ読めるようになってきた。
特に、子供向けと思しき教育系の本があったのが大きい。発音を教えてくれる魔道具と組み合わせて文字を学習したおかげで、今ではだいたい古代文明世界における六歳児くらいの言語能力を獲得するに至った。
新たな言語をほぼゼロから学習することになったわけだけど、それにはまだ一二歳と若いこの脳ミソも一役買ってくれた。前世の仕事をなかなか覚えられなかった頃の私とは大違いだ。若いってすげー(棒)。
そうそう。それと、魔導書を読んだ副産物として、なんと魔法が使えるようになったのだ。まさかこの私にも魔法が使えるようになる日が来るとは……! と、感動して図書館の中で一人ガッツポーズをして跳ね回ったのは記憶に新しい。そんな姿をカーヤに見られて恥ずかしくなったのは、まあお約束みたいなものだよね。
ただ、どうも私は魔力の扱い……というか操作が苦手なのか、世間の人がイメージする「魔法陣ピカーッ、攻撃魔法ドカーン!」みたいな魔法の使い方はほとんど成功しなかった。一応使えるには使えるのだけど、著しく威力が減退してしまうのだ。ぶっちゃけ、実用にはほど遠い。
その一方で、ルーン文字を媒介とした、魔力を練り込んだ神聖文字を紡ぐやり方は面白いくらいに上手くいった。
「『
古代語の発音で、魔力を声に乗せながら力ある文字を読み上げる。すると私の詠唱に呼応して、透き通ったバスケットボール大の水球が目の前に浮かび上がった。
「うん。消費魔力はほぼ無し、か。やっぱり私にはルーン文字が合ってるみたいね」
三ヶ月の……修行? の結果、私の保有魔力量は僅かにではあるけど着実に増えている。元から常人の数倍近くはあったので、こうして頻繁に魔法を使っても魔力枯渇の心配がほとんどないのは我ながら凄いと感じるね。
今の水属性の魔法『
だから、うん。労働なんてクソだ! 私は一生こうやって本に囲まれて生きていくぞ! もちろんカーヤに迷惑を掛けない範囲で、だけど。
生み出した冷たい水を捨てるのももったいないので、水差しに入れて保存しておく。……そうだ。せっかくならまだ冷たいうちにカーヤに持っていってあげようかな。
私は水差しを持って、もはや私の部屋同然になった図書館を出る。カーヤは今頃、演習場にいる筈だ。
「カーヤ、お疲れ様。精が出るね」
「あっ、リゼットちゃん! どうしたんだ? 何か用か?」
「喉が渇いたかな、と思ってね。はい、水。冷えてるよ」
「ありがとっ」
グラスに注いで差し出すと、カーヤは喉をゴクゴク言わせて一気に水を飲み干した。相当喉が渇いていたみたいだ。
「まあ、これだけ動いたらそりゃあ喉も渇くよねえ……」
「?」
汗を拭いながらきょとんとした表情でこちらを見てくるカーヤ。彼女は別にこのくらいなんとも思ってないんだろうけど、運動音痴の私からしたらこの光景はなかなかに異常だ。
演習場のあちこちに転がる
「……これ、全部今日だけで倒したの?」
「うん。最近はけっこう攻略にかかる時間も短くなってきたぞ!」
「三ヶ月前は素人も同然だったのに。カーヤの成長速度が常軌を逸している……」
カーヤがこの演習場で何をしていたかといえば、剣術————厳密には『身体強化』などの魔法を併用した魔剣術の修行だ。古代魔法文明の時代に使われていた剣術の流派らしく、この演習場に保管されていた魔道具に魔剣術の修行プログラムがインストールされていたのだ。
魔道具に魔力を流すと、複数の
「疲れた~」
そう言いながらも型の復習のために剣を振るカーヤ。以前に比べて明らかに構えが様になっている。
「お疲れ様。今日の晩御飯は私が作るからね」
「うん、ありがと!」
昨日、カーヤが狩ってきた野鳥の肉とこの近辺で採れた葉物の野菜がまだ残っていた筈だ。今日はそれを使って蒸し料理でも作ろうかな。
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