第13話 陽光流魔剣術

「うぉおおお〜っ、陽光流魔剣術・一段目『あけぼの』!」


 居合いのかまえを取ったカーヤの鋭い太刀筋が、迎え撃たんとしていた土人形ゴーレムの胴を断ち切る。まるで夜明けを告げる旭日のような激しく美しい斬撃を見せてくれたカーヤは、残心ののち、剣を納めてこちらに振り返った。


「リゼットちゃん、見ててくれたか⁉︎ レベル四、クリアしたぞ!」

「凄かったよ! 凄すぎて私には剣の動きがよく見えなかったよ」


 私の主観では、カーヤが剣を抜いたと思ったら次の瞬間には土人形の上半身と下半身が真っ二つにお別れして地面に転がっていた。ぶっちゃけ何が起こっていたのか、よくわからなかった。

 そして、よくわからなかったということは凄いということだ。カーヤは凄かった。


「レベル四と五の間の壁が思ってたよりでかくて、実はちょっと諦めかけてたんだけど……リゼットちゃんを守るためって思ったらなんか頑張れたんだよなー」

「ああ、だから最近凹んでる場面が多かったのか」


 修行で疲れたのかなぁ、と思っていたけど、割と深刻な悩みだったんだね。そしてナチュラルに小っ恥ずかしいことを言ってくれる。嬉しいんだけど、なんか照れるな。気づいたらカーヤに落とされてそうでちょっと怖い。いや別に嫌ではないんだけど……なんというか、まだ早くない? 私達、一三歳だよ。

 そう。私達はつい最近、誕生日を迎えて一三歳になっていた。

 この遺跡に住み始めてから丸一年。生活のパターンに大きな変化はない。朝起きたらご飯を食べて、私は読書、カーヤは剣の修行。お昼ご飯を食べたら私は家事、カーヤは食材の調達。夜ご飯を食べた後は自由時間だ。とはいっても私達のどちらも午前中と同じように読書や修行に時間を費やしている。二人とも好きでやっていることなので、別に負担には感じていない。むしろ日々自分が成長できているのがよくわかる分、楽しいくらいだ。

 生活のパターンには変化はないものの、私達の実力には大きな変化があった。

 まずはカーヤだ。カーヤが演習場で修行していた魔剣術は、正確には陽光流魔剣術というらしい。魔力を豊富に含んだ陽の光を浴びて自然界の魔素を身体に取り込み、身体能力や魔力を劇的に向上させる――――という流派らしい。

 らしい、というのは「陽の光を浴びることで云々」のあたりがどこまで真実なのか、科学的には証明しかねるからだ。私は知識量には自信があるけど、科学者ではないし、その知識の内容も詠唱魔法の呪文とか歴史とか文学みたいな文系知識に偏っている。いくら古代文明の叡智を絶賛吸収中のこの身といえど、畑違いの内容まで検証することは難しい。

 ちなみに私にはこの陽光流は習得できなかった。というのも、自然界の魔力を身体に取り込むことがこれっぽっちもできなかったのだ。元の魔力量が多いことが災いしたのか、それとも単純にそういう体質なのかはわからないけど、とにかく私には扱えそうにはないことだけはよーくわかった。

 それに、剣を持って試しに素振りをしてみたところ、バランスを崩してすっ転んで膝を擦りむいた上に、手には水脹みずぶくれが。挙げ句の果てには筋肉痛で翌日腕が上がらなくなるというところまで欲張り三点セットを味わう羽目になってしまったので、どの道私には剣術は向いてないみたいだ。というか貧弱すぎだろ、私の身体。どんだけフィジカル雑魚なんだ!


「でもそのかわりリゼットちゃんには魔法があるぞ」

「まあね」


 私のほうも負けてはいない。この一年間で私の魔力量は激増した。

 いや、増えたというと少し語弊があるかな。厳密にはが正しい。

 そもそも魔力とは図書館にあった文献曰く、自然界に存在する魔素を肉体に取り込んだ上で、思念を込めて自在に扱える状態に練り上げたエネルギーのことをいうらしい。当然ながら人によって魔力量には差異があって、私は平均よりもだいぶ多いほうになるみたいだ。

 ただ、それでも常人の何十倍もあるかと言われると、そういうわけでは決してない。前世の地球とは違って、この世界では個人の能力に著しい差がある。この世の中にはまさに戦略・戦術にまで影響を及ぼすようなチート級の魔法士なんてのもざらに……とは言わないにせよ、稀に存在するみたいだ。そんな文字通り一騎当千の魔法士達と比べれば、私なんて吹けば飛ぶ羽虫みたいな存在。……の筈だった。

 ほんのひと月くらい前。一冊の魔導書を手にしたことで、私はその自己評価を撤回せざるを得ない強大な力を手に入れることになる。



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