わからせ
「なんだよアレ…」
たしかにそこは彼女の家の前だ、間違いようがない。
そこに停まってたのは
引越しトラックと、1台の車。
俺は事態を飲み込めずにいた、いや、分かりたくなかったのかもしれない。
俺が呆然と立ち尽くしていると家の玄関にー
「メスガキ…?」
俺は一目散に駆け出していた。
急いで彼女に近づく。
彼女がそれに気づくと、信じられないといった様子で
「おにーさん…?」
驚いているところに俺は詰め寄っていく
「どういうことだよメスガキ、聞いてないぞ。」
「だ、だって…」
彼女が俯いて、何かを言いたくてたくて、でも堪えながら
「お、おにーさんが引越しするって聞いたら泣いちゃいそうだし?wわたしがいなくなったらどうしようってわたわたしそうだし?それに…」
目に涙を光らせながら、でも見せたくない感じで
「おにーさんが、1人になっちゃうし…」
いつもの、調子で
「メスガキが」
俺は彼女の頭に手を乗せる
「子供が大人に気を使ってんじゃねーよ。」
思い切り頭をガシガシする。
「いいか、子供のうちは思いっきり遊んで、思いっきり話して、思いっきり笑って、思いっきり泣いていいんだ、そうやって成長して、大人になってくんだ、だから」
「そうやって泣くの我慢するの、やめな」
その後思い切り泣きだしたメスガキを宥めるのに30分以上かかり、その間メスガキの親にも見つかって危うく無職から犯罪者に成り下がるピンチも乗り越え
「もう行くのか」
「うん…」
まだ目の赤いメスガキを見送る時間になった。
「あのね、おにいさん、まだ言ってなかったことあるんだけど」
「なんだ、結構罵倒は聞き飽きたぞ」
「そうじゃなくて!」
大きくぶんぶんとかぶりを振って言った
「私の、名前…、…っていうの」
「そうか、そんな名前だったのか」
そういえばずっとメスガキ呼ばわりしてたなと振り返りつつ
「俺は…だ、メスガキ」
そういうと彼女はくすっと笑って
「名前教えたのに、まだそれなんだ」
「この方がしっくりくる」
「そ、ならわたしもおにーさんって呼ぶ」
そう話してると、もうそろそろ車を出す時間だという。
「じゃあね、おにーさん」
「ああ、じゃあな」
「…おにーさん、わたし、大人になったら…」
「なんだ?」
「わたし、大人になったら戻ってくるから!わたしの名前忘れないでね!おにーさん!!」
「ああ、忘れないよ、待ってる」
ほんの数ヶ月、けれど色褪せることない出来事だった。
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