Ⅸ 人ならざるもの

沈黙が流れる。

しばらくして彼女が口を開いた。

「む、無理して慰めてもらわなくても大丈夫ですから...」

「嘘じゃない」

そう言うと、彼女は今にも泣きそうな顔で私を見つめた。

「私は、吸血鬼の末裔なんです。より確実に血を分けてもらうために人間のふりをしていただけで。今回見合いをしたのも血を提供してくれる契約者を探すためでした」

このことを他人に言ったのは初めてだった。

父に言ってはいけないと言いつけられていたのもそうだが、何より私が人間でないと分かったらどう扱われるのかを知りたくなかった。

信じた人に、裏切られたくなかった。

「最初、私は貴女を血の提供者としてしか見ていませんでした。血さえ分け与えてくれれば誰でもよかったんです」

でも、気持ちが変わった。

「貴女とは適当な時期に結婚して、事情を説明し、血を分けてもらうつもりでいました。だけど...話すうちに...もっと知りたいと思ってしまった。貴女が好きなんだと思います」

「そんな...勘違いですよ。まだ二回しか会っていないのに」

「いえ、先程も言ったでしょう?『ずっと前から知っていた』と。あの時から私は貴女が好きなんです」

自分で言っておいて、なかなかに恥ずかしい台詞だと思った。

だが、事実だ。

二回しか会っていないなら、もう一回でも、もう二回でも会いに行きます。貴女にこの気持ちが勘違いではないと証明してみせる」

そう言うと、彼女の瞳が大きく見開かれた。

「本当に、わたしでいいんですか...?人ではないのに。貴方をまた襲うかもしれない...こんな...こんな気持ちの悪い悪魔なのに」

「人でないのがなんですか。そんなことを言ったら、私だって人ではありません」

そうだ。

私達は人ならざるもの。

人には理解できない苦しみを背負うもの。

なら、人でないものと分かり合えばいい。

想いを分かち合える人は、

今、ここにいる。

少しの間の後、彼女は言った。

「...お付き合いからでもよろしいですか?クロード様」

「勿論です。フィルミーヌ様」

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