Ⅵ 告白

「ん、ちょっ...やめ...」

「やめない」

そう言いながら彼女は焦らすように首筋をなぞる。

「本当に...」

「駄目」

「ちょっと...」

「やめないから」

「フィルミーヌ様!!」

やっとの思いで引き離すと、彼女の表情が元に戻っていた。

「どうされたんですか?!さっきからなんだかおかしいですよ...フィルミーヌ様?」

私が言葉を発すれば発するほど、彼女の顔が青ざめていく。

身体が震え出し、目も合わせてくれない。

「...フィルミーヌ様?大丈夫ですか?」

「ご...ご、ご、ごめんなさいっ!!わたしっ!!」

そう言うと、抑えていたものが溢れ出るように泣き出してしまった。

「ごめんなさい...!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい...!!」

「そ、そんなに謝らなくても!!こちらこそ突き放してしまってすみません...その...心の準備というか...」

そこまで言って言葉に詰まる。

嫌だったわけではない。

結婚すればいつかはすることなのだから。

ただ、驚いただけだった。

いつもと違う彼女の姿に。

「...大丈夫ですか?」

縮こまって泣く彼女にそう問うが、返事はない。

なんだかあまりにも悲しげで、思わず抱き寄せた。

「っ!!クロード様...!」

「...大丈夫です。怒ってませんから。落ち着いてください」

乱れていた呼吸が段々と落ち着いていく音がして、少し安心した。

同時に初めて人の温もりというものを知った気がした。

父のこと以来、友人とも抱擁を交わしたことはなかった。

恐かったのだ。本能が抑えられなくなるのが。

だが、彼女に対しては不思議とそうならなかった。

ただただ、守りたい、と思った。

「...落ち着きました?」

「...はい。ありがとうございます...」

するりと腕を離すと、若干の名残惜しさを感じた。

「...改めてごめんなさい。あんなことを...」

「いえ...気にしていません。私が結婚に対して煮え切らない姿勢でいたのは事実ですし...」

そういうと、彼女はふるふると首を横に振った。

「わたしが悪いんです...本当は結婚まで秘密にしておくつもりだったんですけど...」

そういうと彼女は私の方に向き直って言った。

「クロード様」

「はい...?」

「わたしは...サキュバスなんです」

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