Ⅲ 逢瀬と驚愕

二回目の逢瀬の日。

今度も私の家に招くのは申し訳ないので、街中を散策することにした。

「大丈夫なのですか、クロード様。陽光は

あなたがた一族の天敵なのでは?」

「案ずるな、ステファン。私の吸血鬼としての血はあまり濃くない。少しの陽光では死なないさ」

一族の末裔とはいえど、何度も人間と交わっている。

そのせいで、吸血鬼の血はだんだんと薄くなり、それに伴って生態も人間に近くなっているのだ。

今では銀の武器や、十字架で死ぬ者など殆どいないと言われるほど。

大蒜や太陽についても同じで、少し触れたぐらいで死ぬことはない。

「では、行ってくる」


人が歩く。

馬が走る。

馬車が行き交う。

そんな賑やかな街の中で。

「すごいですね...わたし、王都の街は初めてです...」

私はフィルミーヌ嬢と歩いていた。

「本当に馬車に乗らなくてよろしいのですか?お召し物が...」

「わたしは大丈夫です。こんなに賑やかな街は初めてなので...自分の足で散策したいのです...すみません!お嫌でしたか?!」

「はは...違いますよ。では行きましょうか」

そう言いながら、私は自分と葛藤していた。

くっ...笑顔が素敵だ...

賑やかな街を見ただけでこんなにも喜ぶなんて。どれだけ清らかに育てられたのか。

この笑顔をずっと見ていたい...

のは、山々なのだが。

...身体が怠い。

私は太陽に弱いのだろうか。

父はこれくらいで異変が出たりすることなどなかったため、大丈夫だろうと判断したのだが。

「あ、わたし行ってみたいところがあって...」

まだ。まだだクロード。まだ倒れてはならぬ。

そう言い聞かせて、精一杯答えた。

「はい...どこですか?」


「...綺麗...」

「王都にこんな花園があったとは...私も知りませんでした...」

"行きたいところ"なんていうものだからてっきり服屋か何かの類いかと思えば花園だったとは。

...正直服屋の方がありがたかった...室内なら多少は陽の光を浴びずに済む...

駄目だもう、頭が働かん...

「愛らしいですね...春になるたび一生懸命に花びらをひらいて...」

「貴女の方が素敵ですよ」

えっ...という沈黙の後、自分がとんでもないことを言ってしまったことに気づいた。

「あ、いや...これは...」

そこで意識が飛んだ。


ふわふわした意識の中で、私は学生時代のことを思い出していた。

かけがえのない友のこと。

数々の忘れ難い出来事。

...初恋の相手。

こちらが勝手に好きになっただけであちらは私のことなど覚えてもいないだろう。

あの一瞬。

ハンカチを手渡したあの時に。

『ありがとうございます』

そういって笑ったあの子を、好きになってしまった。

もう何年も前のことだ。

数秒顔を合わせただけなこともあり、名前はおろか顔も鮮明には思い出せないが...

確かあの時差し出された色白の腕には...特徴的な並び方の黒子があった...


「.........様。......ロード様。...クロード様!」

「!!」

目が覚めるとそこは自室の寝台の上だった。

窓から差し込む光は茜色で、夕方であることが伺える。倒れたのは昼間だったので相当な時間眠っていたようだ。

「大丈夫ですか...?」

「私は大丈夫です。それよりすみません。こんなことになってしまって...なんとお詫びを申し上げたらいいのか...」

「そんなこと!!こちらこそお体の調子が悪いとも知らず...すみません...」

そう言いながら彼女が私を起こすのを手伝ったその時。

はらりと捲れた袖から覗く腕に

特徴的な並び方の黒子が見えた。


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