第9話 クエストボード

 放課後。オレとアンナっちは昼から登校してきたというアンヌさんと合流して学園内にあるクエストボードを見に行った。クエストボードには冒険者協会を通じて様々なクエストが張り出されている。


 内容はモンスターの討伐依頼からダンジョン内の資源調達まで様々あるのだけど、


「なんや、どれもパッとせぇへん依頼ばっかりやなぁ」

「難易度もCランクが最高ですか。あまり受ける価値はありませんね」


 Aランク冒険者の二人には物足りない内容ばかりのようだった。


 Cランクの依頼でもダンジョン奥地に生息する地龍討伐など危険なクエストはいっぱいあるはずなんスけどね……。


「これ絶対に受けなあかんの?」


「校則ではそういう決まりッスね。活動実績が無いと単位が取得できないッス」


「めんどくさぁ……。せやから学校なんて行きたくなかってん。こういうのって普通は融通利かせてもらえるもんやろ。ちょっと職員室で聞いてきたるわ」


 そう言って恋澄さんは意気揚々とすぐ隣の職員室に乗り込んで行ったのだけど、5分そこそこで肩を落としながら出てきた。


「……あかんって。あと、遅刻したことめっちゃ怒られた」

「そりゃ怒られるッスよ……」


 どうやらAランク冒険者だからと言って特別扱いはしてもらえないらしい。


「ではこの辺のCランクの依頼を幾つか受注しましょうか。和樹さんも一緒ですし、私たちもこちらのダンジョンは初めてですから」


「せやな。まあノンビリ行こか」


 そう言って二人がクエストボードから取り外していく依頼書は、どれも六角パーティですら受注するか迷うレベルの危険なモンスターの討伐クエストばかり。それを一気に3つ4つと選ぶものだから、周囲に居た他の生徒たちからざわめきが起こった。


「なんかずっと注目されとる気がするんやけど」

「そりゃ、目立つッスからね……」


 転校生でAランク冒険者なだけじゃない。西洋の血を色濃く受け継ぐアンナっちとアンヌさんの容姿は、日本人ばかりの学園内でめちゃくちゃ目立っている。


しかもそんな二人がクエストボードのCランク向けクエストを乱獲しているとあっちゃ、目立たない方がおかしい。


「というか、何件のクエストを受けるつもりッスか。いちパーティが受注できるクエストは一日一件までッスよ」


 何年か前に他パーティの妨害目的でクエストを独占したパーティが居て問題になったらしく、受領できるクエストには制限が設けられているのだ。


 恋澄さんとアンナっちはぶーぶー文句を言いながらクエストを一つに絞る。


「永源寺ダンジョンのモンスター掃討クエストなんてどうですか?」


「まあ、それでええんちゃう? どんな場所か知らんけど」


「永源寺だったからここから車で四十分ほどッスね。紅葉の名所ッスよ」


 季節的にはまだ紅葉にはちょっと早い。けど、山間の地域でダムもあったりして景色は綺麗だ。永源寺から歩いて10分ほどの所にダンジョンがあり、内部にはスケルトンを中心に人型のモンスターが多く生息している。


「決まりやな。そんじゃさっそく行こか」


 オレたちは事務課でクエスト受注の手続きを済ませ、装備を整えてさっそく永源寺ダンジョンへ向かうことにした。電車やバスを乗り継いで向かうと時間がかかりすぎるので、タクシーを呼んで直接向かってもらう。


「東京と比べるとこういうとこ不便やな」

「東京と比べられたら何だって不便になっちゃうッスよ」


 交通の便も悪ければ、遊ぶ場所だってほとんどない。田舎なんてどこもそんな感じだろうし、そこで生まれ育ったオレからしたら半ば諦めている部分でもある。


 まあ、タクシー代は必要経費として学園側が出してくれるから、それだけは救いッスね。


 窓の外の景色は田園風景から山の中の風景へと変わっていき、タクシーに揺られること40数分でようやく永源寺へ辿り着いた。


 近くにあった冒険者協会のダンジョン管理事務所で手続きを済ませ、山道を登ること十分。ようやく永源寺ダンジョンに辿り着く。


「和樹さんは永源寺ダンジョンに入った経験があるんですか?」


 ダンジョンに入る前に防具を装着していると、早くも準備を整えたアンナっちが訊ねてきた。彼女は革製の軽装備を制服の上から着用している。防御は必要最低限、スピードに特化した戦闘スタイルに合わせた格好だ。


 そして、腰に携えているのは二本のショートソード。


「前のパーティで何度かッスね。その時はあんまり活躍できなかったッスけど……」


 前衛で六角先輩や豊久の守りに徹していたら、他のパーティメンバーから敵を倒せって怒られたっけ。六角先輩からは後でフォローしてもらえたけど、豊久からはモンスターの討伐スコアで煽られた。


 嫌なことを思い出しつつ、いつもダンジョンで使っている鉄製の防具を身に着けようとして…………止める。


「防具をつけないんですか?」


「こんな重い防具をつけてちゃ、アンナっちのスピードに付いていけないッスよ」


 オレに求められているのはアンナっちの動く盾だ。盾がアンナっちの動きを制約しちゃ元も子もない。それなら俺じゃなくてもアンナっちの盾が務まってしまう。


 だから、防具は必要最低限。予備として持ってきた皮装備……気休め程度の防御力しかないそれを制服の上から身に着ける。


 それから、爺ちゃんから貰った刀。これさえ上手く扱えば防具なんて必要ない。


「ええ度胸しとるやんか。準備できたなら行こか」

「はいッス!」


 オレは刀を強く握りしめ、恋澄さんとアンナっちの後に続いてダンジョンに足を踏み入れた。恋澄パーティの……オレにとって新たな冒険者人生の初陣だ。

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