第4話 盾になってくれませんか?
「オレと、パーティを……?」
それは願ってもない申し出で、けれどあまりにも突然な出来事で困惑してしまう。
それはオレだけではなく、恋澄さんは同じだったようだ。
「ちょ、ちょっと待ちいな! アンナちゃん、うちらが何でこの学校に転校して来たかわかってんの!?」
「高校の卒業単位を取得するためですね」
「せや! 唯人のアホが変な気を使ってわざわざ編入させてくれただけや! 別に一般教養の単位さえ取れたらええねん。わざわざこの学校のルールに従ってパーティ組む必要なんか――」
「必要ならあります」
愛良さんはピシャリと恋澄さんを遮ると、俺に向かって話し出す。
「山本和樹さん、私たちはとあるダンジョンを攻略するために東京からはるばるやってきました」
「とあるダンジョン……?」
一線級の冒険者がダンジョン攻略のために住居を変更するのはよくある話だ。とはいえ、そこまで本腰を入れて攻略をしなければいけないダンジョンなんて日本には数えるほどしかない。
この近辺で思い当たるダンジョンは一つだ。
「もしかして、琵琶湖ダンジョンっスか……!?」
「そうです」
日本に残る5つの未攻略ダンジョンの一つ。近江八幡市の琵琶湖にほど近い長命寺の地下から琵琶湖湖底へと続く超巨大ダンジョンだ。
その攻略難易度は同じく未攻略ダンジョンである富士ダンジョンと同じ最上位Sランク。古事記に記述があるほど古くから攻略が始められているが、21世になった今でもその最下層には誰も到達できていない。
「でも、琵琶湖ダンジョンは上層でもBランクの立ち入り制限があるんじゃ……?」
「せやからうちらが来たんやんか。東京やとそこそこ有名なんやけどなぁ、うちら。こんな片田舎までは情報も届いてへんのかな」
「私たちはAランク冒険者です。ダンジョンの立ち入り制限は関係ありません」
「え、Aランク冒険者……!?」
冒険者ランクでいえば上から二番目。Eランクのオレからすれば雲の上の存在だ。愛良さんの実力がとんでもなく高いのは実際に手合わせをして感じていたけど、まさかAランク冒険者だったなんて。
初めて見た……。うちの学校じゃ六角先輩のCランクが最高で、元冒険者の教師陣にもAランクにまで到達した人は居なかったはず。これで体育の先生の態度にも頷ける。
ただ、そうなると別の疑問が浮かんでくる。
「Aランクの愛良さんがどうしてオレをパーティに……?」
「あなたの力が琵琶湖ダンジョン攻略に必要だと感じたからです」
それがさも当然のことのように、愛良さんは言い切る。
オレの力が琵琶湖ダンジョンの攻略に必要……? そんなことあるんだろうか。
「オレ、パーティをクビになった冒険者っスよ……?」
「さっき聞きました。引き抜く手間が省けて好都合です」
「守ることしかできなくて、攻撃はからっきしダメで、足手まといにならないんスか……?」
「それはあなた次第です。――山本さん。私と本気で斬り結んで、私が倒せなかったあなたを信じます。私と共に戦い、背中を預ける盾になってくれませんか?」
「…………ッ!」
盾になってほしい。その言葉に、オレの心臓が大きく飛び跳ねた。
愛良さんは初めから攻撃に期待しちゃいない。オレに期待しているのは盾としての役割のみ。彼女をいかなる攻撃からも守り切る。そのことだけが求められている。
普通なら盾になれと言われて怒るところかもしれない。けれどオレにとって、その言葉は何よりの口説き文句だった。
オレの剣術が……爺ちゃんが教えてくれた山本流護衛剣術が必要とされている。人を守るためだけの剣術。その真価が発揮される時がやって来たのだ。
「……もちろん。オレなんかでよければ……いや、オレは必ず君の力になってみせる! どんな攻撃からも守ってみせるっス!!」
「ありがとうございます、山本さん。心強いです」
愛良さんはどこか安堵したような、つぼみがほころぶような笑みを浮かべた。
か、かわいい……!
表情に乏しい愛良さんの、ふと見せた笑みがめちゃくちゃ可愛かった。この笑顔のためなら何だって頑張れる気がする。どんな脅威からでも守ってみせるっスよ!
「ちょっと待ったぁああああああっ!!」
良い感じに話がまとまりそうだった所に、ストップをかけたのは恋澄さんだった。
「うちは認めへんで、アンナちゃん! この子にアンナちゃんが苦戦したのは本当かも知れんけど、所詮は木剣使った模擬試合やろ。実戦でどこまで使えるかは未知数や。アンナちゃんはよくてもうちが許さへん」
「実戦で使えることを証明すれば認めてくれますか?」
「それはもちろん、認めたるわ」
「では、山本さんにはアンヌさんの〈
おにぎり? いったい何のことかわからないけど、とりあえずパーティに加入するには恋澄さんに実力を示す必要があるらしい。望むところだ、頑張るっスよ……!
と意気込んではみたものの、ちょっと気になったのは、
「あ、アンナちゃん? さすがに〈鬼斬〉を生身の人間と戦わせるんはまずいんちゃうかなぁ……?」
なぜか恋澄さんが引いている。
「山本さんなら問題ありません。〈鬼斬〉の攻撃を10分間耐えきることができれば、山本さんの勝利。パーティへの加入を認めてもらいます。いいですか、アンヌさん?」
「う、うん。まあ、〈鬼斬〉相手にそんだけ耐えれる人間なら文句ないけど……」
間違って殺してしもたらどないしよ……なんて恋澄さんの物騒な呟きが聞こえた気がした。
オレ、本当に何と戦わされるんスか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます