エピローグ

綺麗で見晴らしのよい丘の上。二つの墓石が並んでいる。俺は墓石の前に座り、ただ空を仰いでいた。

あの夜から日本は東京を中心に大きく変わった。裏社会を支配していた巨大マフィアが滅んだことにより、警察や軍が一斉に取り締まりを強化した。それにより平和が訪れた...かどうかは分からない。マフィアが消えたことにより、今までマフィアに怯えていた悪党や輩もいる。そんな連中を一斉に取り締まることは難しいだろう。

しかし、以前より街が過ごしやすくなっているのは確かだろうな。あの日の夜に警察や軍が拠点ビルに一斉突入したそうだ。首領は既に息絶えており、生き残っていた構成員もほぼ全員降伏、逃亡を図ったものもいるようだが、ほとんどが捕まったと聞いた。俺はあの夜からホテルを転々としていた。しばらくは何もする気が起こらなかった。だが、白咲さんに言われた言葉を思い出し、孤児院へ足を運んだ。子供たちはまだ白咲さんのことを聞かされていなかったようだ。まぁ当然かもしれないが。院長はことの顛末を知っていた。白咲さんは最期の日の前に院長と会って話していたそうだ。俺と貧民街で再会する前だろう。自分の資産の全てを孤児院に託し、子供たち一人一人に手紙を書いていたそうだ。それから俺にも渡して欲しいと言われていたものがあるといわれた。黒い箱だった。中身はネクタイだった。白く少しラメがかったネクタイ。俺はその日からネクタイを肌身離さず持っている。他のネクタイはあの日以降使っていないな。俺は孤児院の院長にこれからは俺が可能な限り支援しますと、それから何かあったら連絡してくださいと告げ連絡先の書いたメモを渡し、後にした。あれから直接は孤児院を1度も訪れていないが、子供たちは元気だろうか。白咲さんからの手紙を読めば、必然的に彼女の死を知ることになるだろう...。俺に出来ることはあるだろうか、いや、ないな。これに関しては。俺もただ涙を流し、数日間無気力に過ごすことしかできなかったのだから。

「さて...」

俺はゆっくり、墓石の前から立ち上がる。

「そろそろ、行きます。また、落ち着いたらまた来ますね。」

二つの墓石の前に純白の霞草の花束を添え、白いネクタイを少し結びなおし、黒い

コートを翻し、自分の成すべきことのために、前に歩みだした。

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