第7話 写真

マフィア拠点が襲撃を受けた。深夜の時間だが俺はすぐに寝床から飛び出し、真っ先に白咲さんの部屋へ向かった。部屋の前に着き、ノックもせずにドアを開けた。

上司であり、年上の女性に対してありえない行為だろう。が、考える余裕などなかった。部屋には誰も居なかった。が、襲撃された跡などはなかった。

普通に考えれば、襲撃に対して、弾圧に向かったと考えるだろうが、白咲さんのこの前の言葉や首領からの命令を考えると嫌な予感がした。

俺は部屋に足を踏み入れた。簡素な部屋だった。ベッドとテーブルに椅子、生活に必要な最低限のものしかないといった感じだ。だが、以前部屋を訪れた時には無かったものが目に入った。テーブルの上の写真だ。

「これは...」

白咲さんともう一人、女性が写っていた。孤児院の院長が言っていた白咲さんの親友だろうか、しかしこの女性どこかで...

そう思っていた矢先に大きな爆発音がした。建物が大きく揺れた。

それから俺は白咲さんを探し回ったが、見つからず、襲撃してきた組織の弾圧は終わっていた。襲撃してきた敵組織は白咲さんが壊滅させたとされていた敵マフィアだった。襲撃を受け、拠点はほぼ壊滅し、機能停止、幹部含め死者は100人近く出た。

そして、俺や白咲さんの他の部下に首領から新たな命令が下った。

行方をくらました白咲さんを探し、見つけ次第抹殺せよとのことだ。

俺は翌日、自分が生まれ育った貧民街におりてきていた。ここならもしかしたら白咲さんに会えると思った。もちろん誰にも付けられていないことは確認してきた。俺は、瓦礫に腰をかけ、白咲さんの部屋から持ち出した写真を見ていた。

誰かが俺の前に現れた。足音、匂い、雰囲気で顔を見なくても分かる。

「懐かしいねぇ、ここに来れば会えると思ったよ。」

「ここしかありませんよ、あなたには抹殺命令が出ている。」

俺は冷静に答えた。

「そりゃそうだろうね。」

何も返せなかった。一緒に逃げると提案するか?無理だろうな。俺が足手まといになるに決まってる。そもそもこの人に逃げる意思なんてないだろう。

「その写真を持ち出したんだね、まぁ、予想してたけどさ」

俺は無言で写真を白咲さんに渡した。

「その写真のね、私の親友、叶には...」

「白咲さん?」

「うん、これだけは伝えなきゃね、叶には弟がいたんだ。よく私と一緒にいる時も話をしてたよ、無口だけどとってもかわいいって。大人になったら必ず探して、また一緒にすごしたいって、ずっと言ってた。」

「その弟が俺だってわけですね。」

そうだ、思い出した。俺がまだ本当に幼かった頃、俺には母の他に姉もいた。しかし、姉は死んだと思っていた。貧民街に居た頃に誘拐されたのだ。確かそうだ。

「叶はね、誘拐されたけどなんとか逃げ出して、街で路頭に迷っていたところを院長先生に助けられたんだ。それで私と出合った。」

「そうだったんですね。」

「叶は私なんかと違って本当に優しかった。死ぬ前も私のこと気にしたりさ、自分の分まで私に人助けをして欲しいって頼んだり、それから...」

「俺のことを頼んだんですね。」

「そう、でも君が叶の弟だって気付いたのは、君を助けた後なんだけどね。名前と叶に聞いていた特長が一致したから。」


「じゃあ、私はそろそろ行くね。」

「首領を殺しにですか?マフィアはまだ大勢生き残ってます。いくらあなたでも...」

この時、俺はなんで強引にでも止めなかったのだろうか。

もう後戻りはできない。白咲さんの背中を見つめることしか出来なかった。

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