第6話 淀み
会議、生まれて初めての経験だ。縦長の見るからに高級そうな華美なテーブルを囲むように椅子が並べられていて、奥には首領が、各椅子には幹部が腰をかける。もちろん白咲さんもおり、俺はそのななめ後ろで後ろに手を組み立っている。幹部の後ろに俺と同じように各幹部補佐がいる。ほとんど始めてみる顔だ。任務であまり人と関わらないし、そもそも新人なので当然だが。
「霞君は初めてだねぇ。」
ふと名前を呼ばれたので思わず顔を上げた。注目を浴びる。
「はい、よろしくお願いします。」
「ふっ、肩の力を抜きたまえ。君の優秀さは皆周知済みだよ。」
首領に言われ、俺は軽く会釈をした。
「それでは、まずは戦果、利益の確認からしようか。前回から引き続き白咲君の成果は優秀だね、君は他のマフィアを全滅させてしまう勢いだね。」
「お褒めにお預かり光栄です。」
白咲さんは座りながら会釈をする。
...最近俺は彼女の真意が分からない。孤児、そして俺を助け、守るための力と話していたが、孤児院の院長の話から察するに彼女の目的は...。
それから各幹部の成果報告、今後の方針が議題に挙がり会議は円滑に進んだ。
もっとも首領の意見に反対意見を言う者などおらず当たり前だが。
会議が終わり、幹部は順々に首領に挨拶をした後部屋を後にする。
「霞君、少しいいかな?」
ほとんどが退室したタイミングで俺は首領から呼び出しをうけた。
俺は首領の元へ向かう。白咲さんを含め、俺と首領と首領の側近以外全員が退室し、首領は話を始めた。
「実は君に頼みがあってね、君には白咲君の動向を監視して欲しいんだ。」
俺は予想だにしていなかった命を受け驚いた。
「どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だよ、実は白咲君は他のマフィアを壊滅させているといったが、それに同行している者はいなんだ。要は目撃者がいない。」
なるほど、俺は思った。白咲さんは敵組織を壊滅させていると言っても、殺したりしている訳ではないのではないかと、マフィアとして生きることを止めさせているのではないかと。それなら彼女の真意も想像できる。
「分かりました。俺は白咲さんを疑いたくはないので、疑いを晴らすという意味で監視の任承ります。」
少し棘を含んだ言い方だったからか、側近に一瞬睨まれたが、首領は微笑み、
「それは助かるよ、ありがとう。それと霞君、これから大きな変化が訪れるかも知れないが、君は君の意思を持って行動することだ。私からの他愛ないアドバイスだと思って聞き流してくれて構わないよ。」
俺は無言のまま、少し深く頭を下げ、部屋をあとにした。
俺は監視の目がないかを念入りに確認し、盗聴器の類がないかも再確認し、白咲さんの部屋に向かった。
「失礼します。」
ノックをし、ドアを開ける。
「首領から直接任を受けるなんて偉くなっちゃったねぇ~。」
白咲さんは俺を茶化すようにそう言った。
「えぇ、あなたを監視するようにと。」
「そっか、まぁ予想はしていたけど。首領は頭が切れるからなぁ。
それで、なんて答えたの?」
「任を受けました。そうすることがあの場での最適解かと。」
「そりゃ歯向かえばその場で側近に殺されてただろうからね。
あの人はすごく強いね、私でも奇襲をしないと勝てないと思う。」
「あなたの真意、目的はなんとなく想像できます。でも俺は本人の口から聞きたい。教えてください白咲さん。あなたは一体なにをしようとしているのですか?」
俺は遂に踏み入った。聞いたらもう戻れない気がしたが、聞かずにいられなかった。
白咲さんは少し俯き、そして孤児院を訪れた夜のような真剣な目の色をさせ、
「私は命を懸けてでもマフィアを解体させたい。」
「想像はしていました。」
「そっかぁ、ずっと一緒にいると悟られるもんなのかな?」
「いや、孤児院の院長にあなたの過去を聞くまでは、これっぽっちも思っていませんでした。しかし、マフィアの解体なんてことをしなくても、あなたはこれまで通り人を助け、孤児を守ればいいのではないですか?」
「そうかもしれない、でもマフィアなんてのがあるから傷付くひとが大勢いる。いつか誰かがやらなくちゃいけない。それが私だっていうだけ。」
「そんなの...」
俺が話すのを遮るように
「ていうか、別に死のうなんて思ってないよ、私の目的はあくまでマフィアの解体であってそれに命を懸けるだけだから、だからさ、そんな顔しないで。」
白咲さんはどこか寂しそうな声でそんなことを言う。
一体俺はどんな顔をしていたのだろうか。
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