第4話 幹部補佐
「ぐっ...」
「はいっ、これで私の4連勝だね。」
武術の訓練を始めて、最初に白咲さんの部下と手合わせし、全員打ち負かした。中には体格差がゆうに20センチはあろう男もいたが、勝つのは容易かった。
「驚いたなぁ。そこまで強いとは思ってなかったよ。よしっ、今度は私と手合わせしようか。」
「分かりました。」
二つ返事で答えてしまったことを後悔している。思えばあの時、打ち負かした白咲さんの部下がひそひそと話してこちらを見ていた気がする。
「どうする?実戦は今日はこのくらいにしておく?」
...悔しかったが、このまま戦い続けても、多少力は付くかもしれないが、正直時間の無駄になるだろうと思った。
「そうします。ありがとうございました。」
「ふふん、どうかな?尊敬した?」
「はい、それから驚きました。ここまで強いとは。」
「素直でよろしい!」
しかし、ひとつ疑問があったので質問してみることにした。
「なぜあなたはこちらに攻撃をしてこないのですか?
あなたはこちらの身動きを封じることしかしない。」
そうだ、彼女はこちらに一切攻撃をしてこないのだ。そのうえでこちらの動きを完全に封じ込める。素直な疑問だった。相手に攻撃をし、動けなくしてしまったほうがどう考えても手っ取り早いだろう。
「それが分かったとき、君は私に勝てるようになってるかもね。」
「...?」
「ふふっ、今は分からなくてもいいよ。それに考え方は人それぞれだし。
ただ、霞は私の部下である以上不用意に人は傷つけて欲しくはないけどね。」
そう言って彼女は1度目を瞑り、また口を開いた。
「強さっていうのはね、本来人を守るために発揮されるべきものなんだよ。
ちょっとベタで気取った話かもしれないけどさ、私はそう思ってるんだ。」
そう言った彼女の瞳には、以前少し見えた悲しげな色が見えた気がした。
それから数日間社会勉強と武術、武器の扱いの訓練を受けた。自分ではよく分かっていないが、上達速度はかなり速いらしく、組織内でも注目を浴びているらしい。
「どうする?久しぶりに手合わせする?」
「いいえ、俺はまだあなたには手も足もでない。」
「そっか、まぁ自分の分をわきまえてるのはいいことだよ、ふふ。」
相変わらず腹の立つ言い回しだったが、仕方ない。あれから結局彼女の強さの理由も守るための力というのも、よく分かっていない。
「まぁそれはさておき、今日は訓練はこのくらいにしておこう。
実は今日君は首領に呼び出しを受けているんだ。」
「ただの構成員の俺が?」
「そっ、霞の目まぐるしい成長と噂を聞いて直接顔を見ておきたいんだってさ。
まぁ私も付き添うんだけどね。」
「分かりました。今からですか?」
「うん、じゃあ連絡を入れておいて、向かおうか。」
首領,,,裏社会の頂点のような存在だ。実際周囲の警備は凄まじかった。首領の部屋の周りを固めている黒服は皆見ただけで分かる。おそらく今の俺など相手にもならないくらいに強そうな男たちが十数名構えている。その男たちも白咲さんが通ると深々と会釈をした。
「首領、新人構成員を連れてまいりました。」
彼女はノックをした後そう言った。それから大きなドアが開かれた。
部屋の中央の玉座のような椅子に首領は腰掛けていた。
見た目は想像していたより若く見えた。40代といったところだろうか。
白咲さんが会釈をし、俺も合わせて会釈をした。
「君が白咲くんの部下の霞君だね、噂には聞いているよ。
組織に君のような有能な新人が入ってきてくれて首領としては嬉しい限りだよ。」
「もったなき言葉、お褒めにお預かり光栄です。」
「ふふっ、礼儀作法も素晴らしいね。今日君を呼び出したのは挨拶ってのもあるんだけど、これを。」
そういって、首領の横にいた側近のような女性は封筒から紙を取り出して読み上げた。
「新人構成員の霞。貴君を幹部白崎愛美の補佐として任命する。」
「ってなわけだから、これから頑張ってね。ちなみに君は18才と聞いてるから、幹部補佐としては歴代最年少だ。おめでとう。」
「ありがとうございます、与えられたお役目はこの身の限り全うしてみせます。」
俺はそう言い深く頭を下げた。白咲さんもそれを見て頭を下げた。
「白咲くん、今後も彼とともに、組織に貢献してくれたまえよ。
期待しているよ。」
「はい、もちろんです。ご期待に応えられるよう努めてまいります。」
この時俺は白咲さんに違和感を感じていた。が、それが何か分からないまま首領との会合は無事終わった。
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