第七話 試練の中で

「君の憧れはもう星じゃない。剣だ。」


 この状況を僕を知る人が見たらそう言うだろう。

 あまりにも、あまりにもかけ離れた僕の姿に、きっとみんな口を揃てそう言うに違いない。


 でも


「それでもいい。」


 これは周りから求められてなった姿じゃないから。

 『星』に憧れ、『星の剣士』に憧れ、そうして見つけ、自らなった自分の姿だから。


 僕の中にあったのは憧れ、夢だ。

 『星の剣士』は剣を極めて『星』になった。

 彼の剣技を見た僕は、彼が『星』に憧れ、『星』になるために剣を極めたということがよくわかる。

 正直僕の場合、『星』に憧れたのか『星の剣士』に憧れたのか、混ざり合いすぎてわからない。

 でも、どちらにしても大差ないだろう。僕は——僕はたしかに憧れを抱いた。ああいうふうになりたいって思った。綺麗だって思った。かっこいいって思った。

 だから———


「お前は僕が『憧れ』に近づくための糧になれ!!!」


 『星』になるには剣を極めなくちゃいけない。『星の剣士』になるには剣を極めなくちゃいけない。

 目指す場所は似て非なれど、同じ道の先にある。

 

 息を整え、僕を高みへと導いてくれる好敵手に敬意を払う。


「名乗ろう。セツナだ。」


「オウ、ダ。」


 こいつもオーガのように知性を持っているようだ。おそらく「王だ」と言ったのだろう。

 ロードと僕の戦いが始まったのは夕方。とうに日は暮れており月明かり、星あかりだけが僕らを照らす。

 何も無くなった廃村に風が吹く。燃え残った灰が風に靡かれ飛んでいく。


「いざ参る!!」


 僕は猛スピードで突進を開始。ゴブリンロードはそんな僕を撃ち落とさんと縦横無尽に剣を振るう。

 そんな猛攻の嵐を、僕は躱す、躱す、躱す。

 いつしか纏っているものが緑に変わり、一陣の風のように躱していく。

 僕は思わず笑う。戦闘狂になったのか、それとも気の迷いか。

 気がつけばロードもまた笑っていた。

 段々と速く、強くなっていくロードの斬撃。近づくにつれ避けることもまた困難になっていく。


「!!」


 ついに捕らえられた。右から僕の体を両断せんと巨剣が迫る。僕は今度は剣を狙い


「『彗星』!」


 真っ向からぶつかり合う。今回の目的はこれに勝つことじゃない。致命傷を与えることでもない。武器破壊だ。


「う、おおぉぉぉーー!!」


 剣を両手持ちにする。青が蒼へと変わり、纏うのではなく刃に浸透していく。

 ロードの巨剣にヒビが入る。

 内側から冷気が漏れ出し、世界を白に、蒼に染め上げる。しかし、


「ぶおおおぉぉぉぉーーー!!!」


 ゴブリンロードが天へと叫ぶ。その瞬間。ゴブリンロードの大剣には朱い光が宿った。


 ——再びの拮抗。


 冷気と血風が舞い、全てを蹴散らす。

 体力勝負となれば分が悪い。

 相手は魔物。それも上位種。対して僕は人間だ。体格から言っても体力の差はなんともし難い。

 だからこそ僕は力を込める。


「『たいよおぉぉう』!!」


 一手で足りないなら二手で、二手で足りないなら三手で。

 僕は『凡人』だ。ただ努力するだけの。至高とも言える手本を与えられただけの。

 二つの剣技を編み出した。けれどそれもまた、模倣の一種に過ぎない。『化け物(てんさい)』には敵わない。

 でも、一つの極地で敵わなくても。二つ合わせた極地なら、二つの技を合わせたなら。

 きっとそれは何手遅れていようとも、巻き返し追い抜くための鍵になる。


 『太陽』の紅と『彗星』の蒼が合わさる。

 不思議と反発はしていない。ただ緻密に、ただ凹凸を合わせるように合わさっていく。


 ロードの大剣に入ったヒビが広がっていく。『太陽』が急速に熱し、『彗星』が高速で冷やしていく。


 均衡が、世界が崩れた。


 ロードの巨剣が真ん中から両断される。それは儚く、ガラスのように散っていく。


 そして僕は


「『彗星』!!!」


 その蒼い刃を、ゴブリンロードへと向けるのだった。




 

 


 




 


 

 

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