第六話 試練の始まり

 ゴブリンロードが雄叫びをあげる。

 血の匂いから僕がゴブリンを倒した相手だとわかったようだ。

 かつてオーガと向かい合った時に相当する殺気が僕を襲う。

 僕は一瞬怯むもかつて同等の殺気を浴びたこともあってすぐ構え直す。


(狙うは鳩尾!)


 ゴブリンロードはふつうのゴブリンに比べて二回りほど大きい。それゆえ僕の身体能力では首はおろか心臓すら届かない。


「先手必勝!『流星』!」


 僕は全身を使い過去最速の『流星』を放つ。しかし


ポキ。


「——はっ?」


 たしかにゴブリンロードの鳩尾を襲った剣は半ばから折れてしまった。

 たしかに元々錆び付いてたしこれまでの戦いで酷使もした。けど・・・。


 ゴブリンロードは小首を傾げると右手に握った大剣を振り下ろす。


 はっ、とした僕は退避しようとするも


「がはっ!」


 間に合わず、剣の上から直撃した。

 骨がいくつも折れる。地面に叩きつけられ、意識が朦朧とする。

 体はもう指一本動かない。剣も半ばから折れている。こんな状況で・・・


「どう・・・戦えと・・・。」


 ゴブリンロードは拍子抜けと言わんばかりに僕が先ほど突いた箇所をぽりぽりと掻く。

 もう僕以外は全滅しており残る標的は僕だけだ。

 ゴブリンロードが大剣を構える。

 一思いに振り下ろされようとした、その時。


 走馬灯のようにさまざまな情景が浮かんだ。シャボン玉のように浮かんでは消え浮かんでは消え。そんな循環を繰り返す。


 夜空を見上げ、手を伸ばした時。星について調べた時。始めて、疾る星を見た時。そして、人の生み出す星を見た時。


 あの日から。あの日から僕の人生は決まっていた。何に命を賭けるか。何に命を使うか。星に手を伸ばした時に決まり、彼の剣技を見た時に道は——


「——開いている!」


 起き上がり、大剣を躱す。地面に転がる剣を握り、再び——再びロードと向き合う。


 体が熱い。限界も超えている。だがそんなの——


「——知ったことか!!」


 体に何かが脈動する。脈を、血を、体を巡り、さらに体に熱が籠る。


「僕は星に手を届かせる!僕は星に——なってみせる!!」


 感情とともに何かが堰を切ったように溢れ出す。それは渦となり、竜巻となり、力になる。


 剣を構える。イメージするのはもちろん彼——『星の剣士』だ。

 今思えば彼は剣だけでなく自分も何か纏っていた。これがきっとそれであり——これがきっと僕の剣技を完成させるものだ。


「!!!」


 僕は勢いよく駆け出した。体が軽い。ゴブリンロードの挙動の一つ一つが——


「——よく見える!」


 ゴブリンロードが力任せに大剣を振り回す。それを僕は跳んで躱す。

 身動きの取れない空中に出た僕を見てロードがニヤリと笑うがその時には僕はもうロードの眼前にいた。


「!?」


 驚くロード。懐に入り込んだ僕はロードの首めがけて


「『彗星』!」


 斬撃を放つ、が


カキン!


 食い込みはしたものの骨が硬く突破できない。しかし


(肉は突破した!)


 僕は着地すると高速移動に移る。

 ゴブリンロード。その巨躯その力、たしかに脅威。なれど——


「当たらなければどうと言うことはない!」


 ゴブリンロードはその体力、耐久、パワーを活かした戦い方が得意で、こういう機動戦は不得手だ。故に——


「こちらの舞台に引き摺り込む!」


 ロードの周りを駆けながら僕は『新月』を放つ。

 視認することのできない刃はゴブリンロードの皮を裂き、着々と血を流していく。


 それに対しゴブリンロードは大咆哮。砂嵐が起き、草木波が吹き荒れた。

 僕は思わず立ち止まり、顔を腕で覆う。

 その隙を逃すゴブリンロードではなかった。

 最小限の動きで僕を潰さんとするロード。

 次当たれば確実に全身の骨が砕け、即死するだろう。

 しかし


「『太陽』!」


 それに対して僕はカウンター型の技、『太陽』で迎え撃つ。

 鍔迫り合いに発展し、いくつもの火花が飛び散る。

 ミシミシと剣が今にも折れそうな音を立てた。

 それもあり力の受け流しに集中していたため、徐々に、徐々に刃が近づいてくる。だが


「僕は——僕は剣を極める!そして——そして星に、あの日憧れた存在になるんだ!!!」


 剣に炎が宿る。確固たる意志の炎が。太陽のような、何者も寄せ付けない焔が。

 剣身が紅く染まる。焔の如き熱さが僕を包む。

 気づいたら僕の纏うものには色がついていた。紅い、紅い色が。


「うおおああぉぉぉーー!!!」


 かつてないほどの力が宿る。少しずつ、少しずつ大剣を押し返していく。

 

パリン。


 そんな音が辺りに響き渡る。相打ちだ。


「さあ。」


 僕は目の前の好敵手に告げる。


「もっと剣を交えよう。」


 

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