第五話 第一の試練

 それを知った瞬間、僕は勢いよく飛び出した。静止する声が聞こえるがそれを無視。避難所の戸を開ける。すると


「!!」


 辺りは火の海に包まれており大人たちは逃げ回っている。ゴブリンによる大量虐殺場がそこにはあった。


「ひっ、ひぃ!?」


 近くから漏れた悲鳴で我に帰る。見れば一人の村人がゴブリンにその命を奪われんとしていた。


 ゴブリンに向かって疾走。体当たりを喰らわす。魔物の中で比較的小柄なゴブリンは倒れ込んだ。


「セ、セツナ!」


 驚く声が聞こえるがそれを無視し抜剣。


「——セイ——!」


 ゴブリンの首を跳ね飛ばした。鮮血が飛び散り返り血がつくがそんなことに構っていられない。周りを見渡し戦況を確認。


(これは・・・)


 よく見てみるとどれだけ酷いかがわかる。大人の数はもう片手で数えるほどにまで減っており獲物を失ったゴブリン達は無意識に包囲網を作りこの広場に迫ってくる。


(終わりか。)


 不思議とあっさりこの言葉が出た。そもそも最初から逃げればよかったのだ。ゴブリンが空の村を焼いている間に逃げれば。戦闘経験がある人間など一人もいないこの村が決戦を挑まなければ。


 そんな絶望に苛まれていると手に冷たい物が当たる。剣だ。


「はっ。ははっ。」


 笑いが溢れる。


(そうだ。僕はあの剣士のように、星になるんだろう。なら——)


「——この程度で諦めてどうする!」


 気がつけば剣を構えていた。まだゴブリンは散らばっている。包囲網は完全じゃない。数で相手が優っている以上各個撃破の徹底あるのみ!


 手近なゴブリンを奇襲で降す。手当たり次第に突っ込んでは斬っていく。


 ゴブリンは人間よりも普通、弱い生き物だ。

 おそらく大人たちは恐怖で動けなくなったんだと思う。

 だけど僕はオーガと、もっと大きな脅威と対面した。なら——


「この程度!」


 わずか十二歳。されど十二歳。成長期とはいえ体の大半は出来ている。ならあとはそれを生かすだけだ。あとは工夫をするだけだ。あとは——あとは剣を振るうだけだ。


「うおおおぉぉーー!!!」


 奇襲で倒す限界が来た。敵がまとまり出したのだ。真正面なら普通、いや確実に負ける。たとえ大人であろうとも一般人が一対多数で勝てる相手ではないのだ。しかし——


「『流星』!」


 僕には彼の剣技がある。僕には剣を振るうにあたって手本がある。僕には——僕には夢がある。

 単発突きを放つ。ゴブリンの心臓を穿つとともに後ろに跳ぶ。二匹のゴブリンは僕のいた地点に武器を振ってきたが、空振り体制を崩した。


「『彗星』!」


 全身を使って踏み込む。勢いよく振りかぶり


「——斬——!!!」


 二匹の首を飛ばす。勢いそのままに胴に蹴りを入れ、また手近なやつを探す。しかし


「キシャア!」「!!」


 今度はこちらが奇襲を受けてしまった。声により辛うじて反応、剣で迎撃したがかなり深い傷を負う。


 激しい痛みとともに朱い血が背中から足を伝い、一滴一滴冷たく滴り落ちていく。

 死の気配を肌で感じつつ、剣を握りしめ、覚悟を決める。


——瞬間。


 体に異常なほどの熱がこもり心地よい高揚感を醸し出す。

 傷から零れ出る血なんて知らない。そこから全身に走る激痛なんて知らない。

 受けた箇所は脳じゃない。心臓じゃない。足じゃない。腕じゃない。

 ならまだ戦える。まだ剣を振える。まだ——まだ星を目指せる。


「うおおおぉぉーー!!!」


 痛みを振り切るように裂帛の気合を放つ。一対一だ。なら——恐れる物でもなんでもない!!


 敵が踏み込んでくる。上等だ。真正面から打ち砕いてやる!


「キシャア!」


 ゴブリンが雄叫びをあげる。まだだ。まだその時じゃない。


バッ!


 ゴブリンが曲刀を振り上げる。まだだ。まだ。もう少し。


ブン!


 ゴブリンが曲刀を振り下ろす。今だ!


「『太陽』!!」


 ゴブリンはその場に沈んだ。


 太陽はその身に空一面を照らすほどのエネルギーを持っている。

 それはいつの世も悠然と佇み、まるで王者の風格だ。

 昔から星に猛烈な憧れを抱いていた僕だったが、月に惹かれ、太陽という存在を見た時のことは今でも覚えている。

 

 なんて——なんて温かいんだろう。

 

 王者の風格を持ちながらも温かく地上を照らす太陽。

 朝、ひとつだけぽかんと浮かぶ孤独な太陽。

 この技は自発的ではない。僕の周囲に、朝に侵入してきたものを滅する受身の技だ。

 

 動く星だけではない。

 もしあの星が動いたら。もしあの星になるならば。もし——もしあの星に手が届くなら。

 それがあの人から読み取り、昇華した僕の剣技だ。

 僕の夢であり、僕という存在を体現するものだ。


 人は狂気と言うだろう。人は哀れと言うだろう。人は——人は壊れてると言うだろう。


 だがそれでも、いやだからこそ僕は前へと進む。僕は僕の道を貫き通す!


「これで、最後——!」


 『彗星』で最後の一匹にとどめを刺す。息も絶え絶えになり地面を大の字に寝転がった。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 か細い息が消し炭となった村に木霊する。酸欠となった脳に次々と酸素が送られていく。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」


 早く動けるように空気を送る。ここはもう廃村同然。早く避難しないと。


「きゃあ!」


 悲鳴が聞こえた。何かを押しつぶす音がする。僕はよろよろと立ち、剣を杖代わりにそこに向かった。


 向かった場所には——


「ぶおおおおぉぉぉーー!!!」

 

 ——子供たちを貪り喰う、ゴブリンロードがいた。


————————————————————

あとがき

琴葉刹那です。今回は戦闘シーン・・・はい戦闘シーンでした。読んでもたぶん薙ぎ倒して行ったってことしかわからない拙い戦闘シーンでございます。次回はゴブリンロード戦。詳しく書けたら、臨場感ありで書けたらいいねうん。それではまた次回。ばいばーい。

 

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