第四話 異変

 剣を握ってから二年が経つ。

 毎日は飛ぶように過ぎていった。

 嫌味などの小言も多かったが、それでもかつてより充実した二年だったと断言できる。

 一年を超えたあたりから僕は目標を達成し、技の練習を始めた。

 最初は『流星群』から始めたが、これがなかなかに難しい。

 なにせ連続突きだ。素振りはただ縦に振るうだけだし、突きというのも引き戻してもう一撃と放てば時間がかかる。

 故にまず『流星』。単発突きを極めるとこにした。

 あの日の構えをイメージし、同じように構える。

 そして


「!!」


 無音の気合とともに突きを繰り出す。これの繰り返しだ。

 しばらくして、力を入れて握るよりも、踏み込み、突く時だけ力を入れた方がいいことがわかった。クタクタの時にしたら速度が上がったことがきっかけだ。

 また、右手は剣を支える程度にしたり、剣を握る両手の内側に力を入れるようにした。

 これでまた速度、鋭さが上がった。


 『彗星』の方は素振りの要領でやっていたが、上手くいかなかった。あの日見た『彗星』は、とても鮮やかにまるで使い手と剣が一つの生き物のようになっていた。

 それからは全身を使うようにした。基本にして当たり前のことなのに、僕は一部だけを使って剣を振っていたのである。これによりこちらも速さ、鋭さ、それに威力が上がった。

 ちなみにこちらで気づいた全身を使うということを『流星』に反映させると、さらにオリジナルに近くなった。


 模倣は出来た。しかしいくらやれども光は帯びず何度やれども動きは追いつかない。


 世の剣士が聞けば「そんな簡単に真似されてたまるか。」と言うであろうが、魅入られた僕にとって、あの剣技の再現は急務であり、最初の到着点だった。


 来る日も来る日も剣に明け暮れる。そんなある日のことだ。


「ゴブリンが!ゴブリンがこっちに向かってくる!」


 狩に出ていたある大人がそう言った。


「どう言うことじゃ!」


「そのままの意味だよ。ゴブリンの大群がこっちに向かってきてんだよ。早く逃げないと・・・。」


「ふむ。」


 村長はしばらく考え込む。そして結論を出した。


「戦支度をせよ!ここで防衛線を張る!」


「なっ、——何考えてんだよ!避難しないと——」


「ゴブリンは人間よりも弱いとされておる。つまり大群といえど恐れる必要はないと言うことじゃ。」


「たしかに。」「さっさと武器の準備しようぜ。」そんな声が聞こえる。


 楽観しすぎだ。たしかにゴブリンは人間より弱い。しかしそれは一対一の場合だ。相手の数も分からないのに戦うなんてどう考えても無謀だろ!


 そもそもここ百年魔物との戦闘なんてなかったから戦闘経験のある大人はいない。剣もすでに錆び付いている。無茶だ。


 僕は当然声を上げたが「臆病者め!」と一蹴され他の子供たちとともに広場の避難所にいることになった。


「セツナ。その剣はいざという時のためにお前が持っていなさい。」


 そう言って鎌を掲げる両親。僕は何も言えず、避難所に入った。


 全員収納されたとして扉が閉じられる。その頃にはもう悲鳴と金属音が聞こえた。しばらく俯いていたが立ち上がり僕は辺りを見回す。そして気づいた。


「一人足りない?」


 ———その事実に。

 

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