第三話 夕方の風景
「百二、百三、百四・・・。」
夕方。畑仕事を終えた僕は素振りをしていた。
かれこれ始めて五ヶ月ほどになったが、安定して四百はできるようになった。
夕方のそよ風が僕を撫でる。夕日と合わせて気持ちを回復させる。
素振りはもう心との勝負だ。
無心に振る中、走って働いて全身痛い中、どれだけ振れるか。
最初の方は意地を張りすぎて倒れたり、それを危惧した親に無理矢理止めさせられたりしたが今では自分の力を弁えて行うようにしている。
「ねぇねぇ。お兄ちゃん。その剣貸してよ。」
子供が来て言ってくる。しかし僕は気づかない。
「百五十、百五十一・・・。」
「ねぇねぇ。」
「百六十、百六十一、百六十二・・・。」
「ちょっと!」
腕を揺らしてくる。なに!?
「危ないだろう!何するんだ!」
「お兄ちゃんが反応しないのが悪いんじゃん!それよりもその剣貸してよ!ねぇ!」
「断る。」
「なんで!?」
なんでって・・・。逆になんで見ず知らずの子供に刃物を渡すんだ?
「なんだこいつ。」
納剣し、子供を広場に連れていく。いやいやと子供が言うが強制連行だ。広場には明らかに狼狽した様子の女性がいた。
「あの。」
「すみません。今急いでおりますのでってハー君!?」
やはりこの子の母親だったようだ。
「素振りしていたら小突いてきたんですけど。」
「え!?ハー君ダメじゃない!そんな危ないこと!」
「だっ!だってぇ!」
「だってじゃありません!全くもう!」
あとはあの母親に任せれば大丈夫そうだ。
「失礼します。」
小声でそう言い、自宅への帰路を辿る。
「早く素振りの続きしないと。」
ただもう邪魔されないように場所変えようかな?
そう思う僕であった。
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