第二話 新たな日常

 今日も今日とて走り回る。農民の子として畑仕事は手伝っているから体力には自信がある。いやあったのだが・・・


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。」


 村の外周ともなるとやはり広い。まず中央に住宅地、その周りに各家の畑があるわけだからとんでもなく広い。初日は一周するのもきつかった。でも昼だけでいいと言われたからには全力でそれに甘えたので休憩込みで一日五周はした。


「おー。働かない穀潰しだ。」「あんな子になっちゃダメよ。」


 大人たちがそう貶してくるが無視無視。今はとにかく体力づくりの時間だ。

 休憩していると同年代の男子が


「おい穀潰し。お前もう十歳だろ?ちゃんと働けよ!」


 ニヤニヤしながら言ってくる。ちなみにこいつは村長の息子で・・・なんだったっけ?まぁ村長はこの辺りの取りまとめ兼地主なので基本働いてない。偶にくる国の使いの応対だけして地主として税を徴収している。つまりこいつも働いていない。


「ブーメランって知っているか?」


「うるせぇ!俺は村長の息子だ!次期村長なんだ!」


 馬鹿の一つ覚えのように、いや馬鹿の一つ覚えにそう叫ぶ。こいつ家のことしか誇れることがないのか。


 僕の態度が癪に触ったようで殴りかかってくる。ちなみに取り巻きはいない。今の時間はみんな働いているからだ。


「ふっ!」


 僕はそれを見切り躱すと脇腹にストレートを叩き込む。


「ぐふ。」


 村長の息子が倒れ込む。それを休憩し、見ていた人が喜んだ。慣習だから従っているだけで、基本働かない村長の家にはみんな言いたいことが溜まっているのだ。


「いい気味だけどさぁ。あんたもいい加減働きなよ。十歳以上はみんな働いてるってのに。」


 愚痴混じりにそう言う女の子。手には鍬が握られている。


「昼はちゃんと働いているよ。」


「そう言うことじゃなくてさぁ。朝からちゃんと働けって言ってんの。私たちだけ働いて不平等でしょ!」


 少女が鍬をこちらに向け怒り立つ。「そうだそうだ」と騒ぎ立てる外野。

 そんな周りに僕は苦笑する。


「別に決まっているわけではないだろ。慣習ってだけで。それにちゃんとやってるんだから文句言われる筋合いもないしね。」


「『ちゃんとやってる』?そんな意味のないことをしてなんの役に立つのよ!空に手を伸ばすのをやめたと思ったら今度は走って!剣を振って!そんなことになんの意味があるって言うのよ!」


 僕は真面目な顔をし、ちゃんと向き合う。


「僕は星になりたいんだ。あの剣士のように。」


 そう言った瞬間。場が笑いに包まれる。


「剣士?剣士ってあのあんたを送り届けてきたやつ?そんな理由で義務を放棄するの?」


「別に義務じゃないだろ。農家に生まれたから農業をしなくちゃいけないわけじゃない。お貴族様と違って平民は色々としがらみが少ないからな。」


 どうやら彼女は家業に誇りを抱いているようだ。僕が星に憧れを抱くのと似たようなものだろう。


「もういいわ!あなたには何を言っても無駄って分かった!せいぜい気がすむまでやって無駄な時間を過ごしなさい!」


「そうするとしよう。」


 そうして僕はまた走ることを再開するのだった。

 

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