第一話 剣を取る

 あの剣士に救助された僕は、あのあとこっぴどく叱られた。なぜ山頂に向かったのか、なぜ言いつけを破ったのか。たぶんすごく怒ってたんだろうけど、僕に叱られたという実感はなかった。


 朝が来た。

 いつも通りの日常。

 起きて、食べて、働いて、眠る。そんな日常。世界の歯車を回している小さな小さな歯車。同じことの繰り返し。そんな日々が帰ってきた。


 朝起きたら「もうあんな危ないことをするんじゃない」って言われたけど、それもまた、僕の耳をくぐり抜けただけだった。


 あの日以降、畑仕事に身が入らなくなった。白昼夢を見ているような感覚で、大人たちは「恐怖で魂が抜けたに違いない。」と、好き勝手言っていたけどそんなんじゃない。


 日が経つごとにあの星は大きく広がっていく。あの剣は強く、速くなっていく。


「セツナ。大丈夫か?」


 いつまで経っても元に戻らない僕を心配してか父が声をかけてくる。しかしそれは僕を過去へと戻すものではなく、未来へと、夢への道を促進していった。


 僕は父に申し出た。


「倉庫にある剣を使わせて欲しい。」


 父は驚いた様子だった。


「あの人みたいに、星になりたい。」


 父はかなり粘り、母とともに強硬に反対したが、いつまで経っても折れない僕を見て、『昼はちゃんと畑を手伝うこと』を条件に認めてくれた。


 認めてくれたのは言い出してから三週間後、オーガとの遭遇から一ヶ月後の夕方だったが、僕はその日のうちに剣を取りに行った。


 家の裏に建つ古ぼけた木造の倉庫。すでに雨風を凌げるものではなく蜘蛛の巣が貼ってあった。

 

「見つけた。」


 剣が立てかけてあった。一本の剣が。この村はもともと開拓民の村故こう言う物があるのだ。

 剣を抜く。その剣身は錆び付いてはいたものの、まだ鈍い光を放っていた。

 その日は、剣を抱いて寝た。


 次の日の朝。

 僕は親に「剣の錆を取りたい。」と言った。だが


「切れ味が復活したら危ないだろう。」


 そう一蹴された。まだ子供の遊びと思っているようだ。


 その後庭に出た僕は剣を抜き、目を閉じる。

 思い描くのはあの人のような剣。星を体現したかのような、綺麗な技。

 構える。

 それは素人丸出しで、明らかに地力が足りないことが伺える。


「う〜ん。やはり基礎からか。」


 朝は村の外周を、夕は素振りを繰り返すことにした。

 ただこれだとすぐに技の方に流れていきそうなので目標を定めた。


「ひとまずは、『一日三十周。素振り五百回』を達成してからにしよう。」


 素振り五百回は少ないかと思ったが存外多い。なぜなら走ったあとは畑仕事、それから素振りなのだ。体力的に極限状態の中やる素振りはかなりきつい。だが


「夢のために。」


 一つの決心の前に、僕は以前と少し変わった『毎日』を過ごすのであった。


————————————————————

あとがき

はい流石に一話が薄すぎ&流れが早すぎたので一、ニ話下書きに戻して一話リメイクしました。琴葉刹那です。今日中に同じところまで戻すのでよろしくお願いします。



 

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