第2話 同僚とその取り巻き達

さて、この国は魔法使いが沢山いると言っても、全ての魔法が扱えるわけでは無く、その魔法使いよって使える魔法は様々でした。

目の前で氷魔法を披露しているのは、先日ニーナに本を大量に押し付けてきたシシリアです。

彼女は氷魔法が得意なようで、いつも侍らせている取り巻き達にせがまれて、休憩時間に魔法を披露していました。

シシリアによって作り出された大きな氷の結晶は、掌の上で僅かに浮き上がり、陽の光を受けてキラキラと光り輝いています。

下位貴族の中でも、そこそこ魔力量の多いシシリアは、魔力量の少ない取り巻き達には憧れの的なのでしょう。

彼女たちは結晶を眺めながら、うっとりした表情でシシリアを称賛していました。


「凄いですわ、シシリア様!」


「本当に、わたくしなんて氷の礫が作れれば良い方ですのに……。」


「ふふふ。私、最近氷の矢が撃てるようになったのよ。」


調子に乗ったシシリアは、胸を張りながら自慢げに話をしてきました。

その途端、取り巻き達から称賛の声が飛び交います。


「まあ!本当ですか!?」


「素晴らしいですわ、シシリア様!!」


交互にシシリアを褒めちぎる取り巻き達に、シシリアが満足そうに頷いていると、彼女達の口から思いがけない言葉が飛び出してきました。


「こんなに素晴らしい才能をお持ちなら、魔王討伐チームへのお声が掛かるかもしれませんわ。」


「え?」


「そうですわね、きっとシシリア様の噂を聞いて王宮から使者が来るかもしれませんわ!」


これには、さすがのシシリアも若干引き攣った顔をしながら驚きの声を上げました。

しかし、想像を膨らませ夢見心地の彼女達には、シシリアの声が聞こえなかったのでしょう。

いつの間にかシシリアの周りでは、シシリアが魔王討伐チームの一員になるかもしれないという話で盛り上がっていました。


「凄いです、さすがですわシシリア様!」


「本当に、わたくし達貴族の誇りですわ♪」


「も、もちろんよ!!私が討伐チームに入ったら魔王なんて、ちょちょいのちょいで倒してきて差し上げますわ!」


おほほほほほと、おだててくる周りに調子付いたシシリアは、高笑いと共にそんな事を言いだしてきました。

その会話を部屋の隅で聞いていたニーナは、彼女らに気づかれない様に溜息を吐きました。




先程シシリア達が話していた魔王とは、大昔から人々を襲い苦しめる厄災として、この世界に君臨する邪悪な存在でした。

しかし魔王は今から300年ほど前に、この国の勇者や聖女、賢者たちによって封印されていたのですが。

しかしつい最近、その封印が解けて魔王が復活してしまったという噂がこの国に流れました。

最初こそ、王国側はその噂を信じていなかったのですが、各地で魔王による被害が相次いだ為、王国側が調査したところ、本当に魔王が復活していたのでした。

慌てた王国は、勇者や聖女、賢者などを王国中から呼び集め、急いで魔王討伐チームを編成したのでした。


そして今や国中は魔王討伐ムードで盛り上がり、腕に覚えのある魔法使いたちは、誰が魔王を倒し手柄を立てるのかという噂で持ち切りでした。

そんな噂に便乗してシシリア達は盛り上がっていたのですが、しかし勇者や聖女というだけあって、彼らの素性は魔力の高い上位貴族ばかりです。

そんな所に一介の子爵令嬢如きが参加できるわけがありません。

その事実を知ってか知らずか、シシリア達は誰も咎めない事を良い事に、好き勝手に話を飛躍させていきました。

とうとう魔王討伐チームに入った話で盛り上がり始めた頃、何故かシシリアは部屋の隅で静かに休憩していたニーナに絡んできたのでした。


「ふふふ、私程になると将来は安泰ですけれど……その点、魔力が無い方は将来不安で堪りませんわよねぇ。」


そう言ってニーナの方に視線を寄こし、憐れむ様に呟いてきたのでした。

突然話を振られたニーナは、内心「またか」と溜息を吐きます。

事ある毎に人を貶す言葉を吐いてくる相手に、ニーナはうんざりしていました。

シシリアの言葉に拍車をかけるように、取り巻き達もニーナを見ながら笑っています。


「本当ですわ、魔力がゼロなんて前代未聞……結婚だって出来はしませんわ。わたくし、ああなりたくありませんわ~。」


「あら、本当の事言っちゃ可哀そうよ。」


などと言いながら、くすくすと笑ってきます。

もう慣れっこになったとはいえ、休憩時間まで絡まれては休めるものも休めないと、ニーナは内心溜息を吐きました。

そこへ、タイミングよく図書館長様が現れたのでした。


「みなさん、もう休憩時間は終わっていますよ、もう仕事にお戻りなさい。」


「は、はい。」


突然の図書館長の登場に、シシリアやその取り巻き達は蜘蛛の子を散らすように休憩室から出て行きました。


「大丈夫ですか?あの子達には、後で私からきつく注意しておきましょう。」


逃げ足の速いシシリア達を、ぽかんとした表情で見ていると、図書館長が溜息と共にニーナの肩に手を置きながらそう言ってきました。


「いえ、私は大丈夫です。」


「そうですか?でも無理はいけませんよ。」


「はい。」


優しい館長の言葉に、ニーナはそれだけで先程のシシリア達の暴言はどうでも良くなり笑顔で返事をするのでした。

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