6 救出劇

クソッ、でかい図体に見合わず速いな!

 小刀を創造して速度を上げるが、追いつかない。

 辛うじて姿を見失わずに追いかけるのがやっとだ。


 裏路地を抜けて行くと、あからさまに怪しい建物に辿り着いた。

 大男はその建物に入っていった。

 入りたいが、番人らしき奴が厄介だな。


 そうだ!

 俺は吹き矢を創造することに。

 毒付きと念じたが、本当にそうなっているかは、賭けだな……


 俺の放った矢は見事に命中した。

 番人はその場に倒れた。

 よし! ちゃんと痺れたようだな。


 突入だ。

 試験管やフラスコらしきものが転がっていて、中は研究室のような感じだ。

 今は使われていなさそうだが……この世界にこんな科学施設あるんだな。


 エマはどこだ?


「離して!」

「うるせぇ! 黙ってないと殺すぞ!」


 エマの声だ!

 しかし、聞こえるのは壁の向こう側。

 道も複雑で、このまま向かっても間に合わないかもしれない。

 仕方がないな……


 巨大なハンマーを創造し、思いっきり壁に打ちつける。

 くっ、重い。でもそれだけの威力が見込めるってことだ。


 ズドォォォン……


 壁は粉々に崩れ去り、その先には四肢を鎖で拘束されたエマの姿が。


「せ、せんせー!」

「な、テメェ何者だ! 何故この場所がわかった!」

「彼女、うちの生徒なのでね。離さないと痛い目見ますよ?」


 幸いエマに怪我はなさそうだ。

 場所は一転して牢屋みたいで、エマを連れ去った大男と、細身の白衣を着た男がいる。


「チッ、教師か。まぁいい邪魔者は殺すだけだ」


 大男はその大きな拳を俺に繰り出す。

 俺はそれを軽く躱して、先程の吹き矢を放った。

 これで痺れるはず……


「何を打ったかは知らんが、俺の筋肉は鋼鉄も凌駕する。生半可なもんじゃ貫けん!」

「あぁそう、だったらこいつはどうかな」


 腰に帯びていた刀を抜き、大男に向ける。


「なかなか見ない剣だな。俺には敵わんだろうがな」


 大男は何やら不思議な構えをとり、俺に対峙する。


「オラァァア!」


 なんだ、相変わらずただのパンチかよ。

 警戒するだけ無駄だったな。

 横に回避して、そのまま前に踏み込み、反撃を狙ったその時だった。


「グハッ」


 俺の腹部に激痛が走る。そのまま地面に膝を突いてしまった。

 何が起こったんだ? 確かに躱したはずだが……

 大男を見ると、パンチを繰り出した逆の腕が前に突き出ている。

 一撃目はブラフだったってことか……


 今まで生きてきて初めて攻撃をまともに食らった。

 感じたことのない痛みに、このまま気絶してしまいそうだ。

 しかしそうはいかない。生徒の命が懸かっているんだ。

 こんなところで倒れるわけには……


 その一心で俺は立ち上がり、刀を握り直す。


「……しぶとい奴だ」


 今の俺に、あの二発目を見切ることは難しいだろう。

 ならばどうするか……それは、相手が動く前に仕留めること。


 わざとらしく剣を構えて、相手が構えるように誘導する。

 目論見通り、大男は先程と同じ構えをした。


 よし、今だ!

 俺は大男の頭上に巨大なハンマーを創造した。

 ハンマーは重力に従って落ちていき、脳天に直撃。大男は気絶して倒れこんだ。


「あ、待て!」


 細身の男は、大男になど目もくれず逃げて行った。仲間意識ってのはないのかよ……

 追いかけるだけ時間の無駄だな。今はエマを解放するのが先決だ。


 力技で鎖を壊すと、暫く沈黙が流れた。

 しかし次の瞬間、エマが俺に向かって電撃を放った。咄嗟に避けようとしたが、間に合ない!

 そう思ったが、電撃は俺の真横を通過していった。

 俺の後ろを見ると、大男が立ち上がろうとしたところで電撃を食らい、また倒れ込んだ。


「……これで貸しはチャラ。あ、あと……何にも言わずに店を飛び出してごめん。エマ、天才って言われるのが大嫌いで……」

「そうだったのか……俺も配慮に欠けていてすまなかった」

「よし、もうこの話はおしまい! 早く帰らないと夕食の時間になっちゃう!」

「あぁそうだね」


 こうして無事仲直りを果たした俺とエマは帰路に着くのだった。


「それにしてもせんせーの戦い方は姑息だったねぇ」

「命を懸けた実戦で姑息だとか言ってられないだろ。勝ちは勝ちだ、死ななきゃいいの。育てた生徒が戦争に行くことが避けられないのだとしたら、俺はこれからそういう教育をしていくから」

「面白い授業よろしくね、せんせー」


 これって、授業に出席してくれるってことだよな!

 よっしゃぁ!


「なにガッツポーズしてるの?」

「いや、こっちの話だ……そうだ、何故天才って呼ばれたくないんだ?」

「エマはね、昔からこんなに魔法が使えたわけじゃないんだよ。むしろ人より劣っていた。でも、お父さんとの約束を果たすために、死ぬほど勉強してやっとここに至っているから。天才っていう言葉で、人の努力を終わらせられるのが嫌」


 そうだったのか……

 寝ているだけだと思っていたが、思えば深夜も勉強していたって言っていたな。

 そんな血の滲むような努力をしてまで約束を果たしたい相手……


「そのお父さんってのはどんな人?」

「エマを男で一つで育ててくれて、明るい人だったよ。地元の人からも好かれてた。今はもういないけど……」

「えっ……」

「商人だったのに、五年前の徴兵でね。行ったきり帰ってこなかった」

「それは……気を悪くさせてごめん」

「いいよいいよ。昔のことだし。さ、帰ろ」

「あぁ」


 夕焼けに照らされるエマの目には、涙が受かんでいた。

 それを見て、俺はこの職の責任の重さを改めて強く感じたのだった。




「エマが授業に出席してくれるみたいですよ。魔法以外は」

「まぁ! やるじゃない! まぁ、魔法はいいわ。諦めてる」


 今日も今日とて校長室。

 今日は副校長みたいな人も部屋にいた。

 無口なおじさんで、厳格な雰囲気が漂っていて少し怖い。


「そうだフリーダ。ストーカー被害で困ったらすぐに俺に言ってくださいね。犯人を半殺しにするんで」

「なに? 急にどうしたのよ」

「え、ストーカーにトラウマがあるって聞いたので……」

「そんな被害遭ったことないわよ。誰と間違えてるのよ」


 なっ……

 これはまんまと嵌められた!


「エマ……覚えとけよ……」

「あら、仲良くなれたみたいで何より」


 フリーダが楽しそうに笑っているが、こっちはなにも面白くない。

 俺はエマの部屋に向かって駆け出した。

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