5 眠たげな首席
もうそろそろだな……
ゴーン、ゴーン
始業時刻だが……
やっぱりエマは起きてこないか。
エマを授業に出席させてほしいとの依頼を受けた俺は、フリーダと一緒に学生寮に来ていた。
「やっぱり起きてこなかったわね……」
「いつもこうなんですか?」
「そうねぇ、まず午前の授業には出席しないわね。さ、突撃するわよ」
「え、突撃?」
そう言って豪華な盾らしきものを投げ渡してくる。え、なんで?
「何に使うんですか?」
「攻撃を防ぐの」
攻撃?
フリーダはエマの部屋の扉をマスターキーらしきもので開け、ズカズカと部屋に押し入って行く。
手招きをされたので、俺も後に続くことに。
まるで女子の部屋だとは思わないな。本が床に散らばっており、それ以外には質素な家具しかない。
「起きなさい! 朝よ!」
うわっ、うるせぇ!
フリーダが盾のようなものに棒を打ち付けて、轟音を響かせる。
俺にも棒を渡してくる。やれってことか?
「あぁ、もう! うるさい!」
うわっ! あぶねっ! エマの手から火球が繰り出された。
フリーダは何事もなかったかのように盾で防ぐ。
防ぐってこう言うことだったのか……
ていうかなんで魔法打ってくるの!? 寝ぼけてるの!?
まったく、危険極まりない。
「ん、んんー」
「あ、やっと起きた?」
至って何事もなかったかのように、エマが無造作に伸びた赤髪を揺らし、のそのそと起き出す。
ん?なんか後ろから熱気を感じるような……
「え、も、燃えてる! なんか燃えてるんだけど!」
「あぁ、ほい」
フリーダはそう言い、何食わぬ顔で水を手から出して消火した。
ま、魔法だ! こんなに間近で見たのは初めてなんだが……
なんかシチュエーションが微妙だな。
「おやおやせんせー方。朝からデートですか?」
「で、で、デート!? そんな訳ないでしょう!」
「そうだぞー、馬鹿なこと言ってないで起きて」
そんなこんなでやっとエマを起こした時には、一時間目は終わっていた。
とは言っても、授業に出席していても寝ているだけなので、出席していると言っていいのか怪しいが……
でも話によるとエマは魔法の秀才で、こんなでも入学試験は総合一位の主席だそうだ。
さらに成績はキープ中と。皮肉なもんだ、こんなの努力した奴が馬鹿みたいだな。
その夜、エマは夕飯後、すぐに自室に行った。
このまま寝ているんだとしたら……なんであそこまで眠くなるんだろうか。
そう思っていた矢先、多くの人が寝静まった頃に、徐にエマの部屋の扉が開いた。
こんな時間に外出か?
俺は真っ黒な外套に身を包んで、後を追うことに。
違うぞ?これは決してストーカーとかじゃないから!
生徒が授業に出席できるように、生活習慣を正すためだからな!
人通りのまったく無い廊下を進んで行くエマ。
向かった先は、食堂か? おいおい、調理室に入っていったぞ!
もちろん食堂にはエマ以外誰もいない。氷魔法が利用された冷蔵庫を開き、何やら皿を取り出した。
それを幸せそうに頬張った後、食堂を後にした。
次に向かった先は……図書室?
ここの学校の図書室に来るのは初めてだが、随分立派だな……
一生かけても読みきれなさそうな数の本が並んでいる。
誰も居ない、薄暗い図書室。
エマはランプの明かりだけを頼りに本を読んでいた。
そこからどれだけの時間が経っただろうか。
俺がうとうとし始めていた頃、椅子を引く音で目が覚めた。
やっと終わったか……
その後は大人しく自室に戻って行った。
何故こんなに遅くまで図書室にいたのだろうか。そりゃ起きられないだろう。
謎が深まるばかりだ……
明日尋ねてみるとするか。
そうして翌日。
今日は休日だ。生徒は思い思いの一日を過ごす。
で、肝心のエマは……お、いたいた。教室で寝ている。
昼間っから何やってるんだよ。寝るならせめて自室で寝ればいいのに……
「おはようエマ」
ゆっくりと顔をあげ、俺の顔を見て再び机に顔を伏せた。
俺の話は聞く価値ないってか?
「おーい起きてー。聞きたいことがあるんだけど。」
「ふわぁぁ、何? エマは今忙しいんだけど」
忙しいって……
寝ているだけじゃねぇか。
まぁいい。
「昨夜遅くまで図書室いたろ。そんなんだから次の日起きれないんじゃないのか?」
「!!! ……知ったね? エマの秘密を」
「ひ、秘密……?」
そんな大層なものだったのか……?
まずい、怒られる?
「エマが夜な夜な糖分補給していたことも見たってこと!?」
「あ、あぁ」
「えぇ!? あぁもう! 怒られる!」
「怒られる? 誰に?」
「食堂のおばさん! あの人怖いんだよぉ……」
「食堂のおばさん? なんの話をしているんだ? そんな冗談はいいから」
「え……? チクらない?」
「あぁ、よくわからんけど」
「よかったぁ」
エマが安心したかのように息を吐いた。
俺はそんな話をしに来たんじゃない。
「ちょっと待って。せんせーストーカーしたってこと?」
「うっ」
「あれぇぇ? フリーダせんせーに言いつけちゃおうかなぁ」
エマがニヤニヤとこちらを見る。
まぁ、エマを出席させてと依頼したのはあの人だし何も言われないだろ。
「フリーダせんせーって、昔ストーカー被害に遭ってそれがトラウマだから、そういう話には厳しかったような……」
なっ……
そんな話初めて聞いたぞ!
まずい。俺の全身を冷や汗が流れる。
「どうしよかなぁ。エマも傷ついたしなぁ。今甘い物のが食べたい気分だけど……」
「好きなだけ食べさせてあげる」
そうして俺とエマは街に繰り出すことに。
そして、喫茶店らしき店に入った。
どうしてこんなことに……
貰ったとはいえ、フリーダからのお金でこんなことをしていいのだろうか。
「これとこれと……あと、これとこれください。せんせーは?」
「……俺は紅茶だけでいい」
好きなだけ食べろと言ったものの、エマは遠慮ということを知らないだろうか。
「んーおいしー!」
「そりゃよかった。で、あんな遅くに図書室で何してたんだ?」
「魔法の勉強」
「授業に出ればいいんじゃ」
「だってレベル低すぎて為になんないんだもん。多分魔法の先生よりもエマの方ができるし」
こりゃまた……担当教師が聞いたら卒倒しそうだな。
魔法担当じゃなくてよかったと心の底から思う。
やっぱ流石は首席といったところなのだろうか。
入学試験の成績は、武術の実技以外は全て上位三本指に入っていたんだっけ。
「やっぱり天才は違うなぁ……」
俺が無意識にそう呟いた時だった。
「……いい人だと思ったのに……せんせーもそういうこと言うんだ……」
いきなりエマが席を立ち、足早に立ち去ってしまった。
「お、おい! 待って!」
俺は金貨一枚を机の上に放り投げて店を出た。
くっ、見失ってしまった。
俺怒らせるようなこと言ったか?
とにかくエマに謝らなければ。
俺は勘だけを頼りに走り出した。
日が落ち始めた。一度学校にも戻ったが、見つからなかった。
恐らく街のどこかにいるんだろうけど……あまりにも広すぎる。
諦めかけていたその時、遠くに揺れる赤髪が。あれはきっとエマだ!
しかし次の瞬間、エマが細い路地に消えた。
何が起こった!? 何かに引っ張られたように見えたが……
嫌な予感がする……
急いで路地に行くと、丁度黒ずくめ大男が動く麻袋を担いで走って去って行くところだった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます