第2話・怯えた瑠々亜ちゃん

 古文の授業が終わっていよいよ昼食。反語表現『~だろうか(いや、~でない)』は地味に難しい。瑠々亜ちゃんは当然首をかしげていたが、俺でもうなるほどの強敵だった。


「Hey , dragon !」


 俺は今、外国人に話しかけられたのだろうか(いや、話しかけられていない)。



 冗談はいいとして、天野哲哉が話しかけてきた。


「issho ni tyushoku kuouze !」


 こいつ、発音がいいだけで英語が出来る訳ではないのか。


「サッカー部の奴らと食えばいいのに」

「なんでよ、俺サッカー部じゃないよ」

「え!? 趣味サッカーって言ってたじゃん!(プロローグ参照)」

「お前なぁ……じゃあ手芸が趣味だったら手芸部に入るのか?」



 ……いや入るでしょ。



 あ、そう言えば瑠々亜ちゃんは何の部活に入っているのだろうか?


「どうした、物思いにふけったような顔をして」

「いや……る、蘭さんがどの部活に入ってるか知ってる?」


 危ない、瑠々亜ちゃんって呼ぶところだった。


「誰? 蘭さんって」


 マジかよ。


「俺の隣だよ」


 と言って隣を指差した。


 瑠々亜ちゃんは、今俺と天野哲哉との間で話題にされているなんてことを微塵も知らずに、ハムスターのようにちまちまとパンをかじっていた。


 ああ、なんて愛おしいんだ。


「どこ? いないけど」


 天野哲哉が言った。ああ、もっと下、視線を下に下ろせ、瑠々亜ちゃんはちっちゃいから。


「うーん、いないなあ」

「いやそこにいるって」

「必ず見つけだそう」


 そう言った天野哲哉は、いきなり叫んだ。


「蘭さああああああぁぁぁん!!!」


 瑠々亜ちゃんの体がビクッと揺れた。

 天野哲哉、そなたはアホなのか?


 でも今の瑠々亜ちゃんの反応はこの上ないほど愛おしかったから、今回は許すとしよう。



「な、なに?」


 瑠々亜ちゃんが怯えた声で返事をする。


「あ、いた。君、どこの部活なの?」


 簡単に人の懐に入っていける天野哲哉のフレンドリーさには本当に感謝している。


「陸上部のマネージャー」

「陸部マネ!? 俺陸部! よろしく!」


 確かに天野哲哉は足速そうだ。


「あ、そう言えばdragonは何部なの?」

「え? 俺? 俺は入ってないよ。入ってないけど……入部届けって締め切り明日だったよね」

「うん」

「よし、じゃあ陸上部入るわ」

「お前もか! よろしく!」


 これで瑠々亜ちゃんともっと長くいられる。



 大丈夫? ここまできたら変態じゃない!?

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