第1話・浮かない瑠々亜ちゃん
「えっと、北方……なんだっけ」
「
出席番号三番、天野哲哉が話しかけてきた。物覚えは良い方だ。
「じゃあ竜だからdragonって呼ぶわ」
「何でもいいよ」
今、天野哲哉について分かったことは、命名がくそださいことと、英語の発音がくそうまいことだ。
「はいきりーつきをつけーれぃ!」
「おねしゃーす!」
「ちゃくせきー」
ガタガタガタ、ガタガタガタガタ、……ストン。
今回は瑠々亜ちゃんはなんとか椅子に収まったようだ。
くそっ、愛おしすぎる!
「カルスト地形と言えば、アルベロベッロがありますね。アルベロベッロはほにゃららほにゃらら……」
開始早々、言っていることが分からなすぎて、眠くなってきた。
つい、顎を手のひらに乗っけて右を見てしまう。すると、瑠々亜ちゃんが浮かない表情をしていた。
愛おしい。
違う違う、瑠々亜ちゃんに何があったんだ。
よく見ると、瑠々亜ちゃんの机の上には何も置かれていなかった。強いて言うなら、うつむいている瑠々亜ちゃんの黒くて長い髪の毛達だけが置かれている。
ははぁ、教科書を忘れたんだな。
俺も男だ。俺も出来る男だ。出来る男は女を守らなくてはいけない使命があるんだ。
そう思って、俺は瑠々亜ちゃんが教科書を見ることが出来るように自分の教科書を右に寄せた。
それに気付いた瑠々亜ちゃんは、教科書を……
引き出しから出した。
あるんかい!
ならなぜうかない表情をしているのだ?
「そして、アルベロベッロには白い壁に円錐形のとんがり屋根をのせた『トゥルッリ』があります。ほにゃららほにゃらら……」
開始から三十分がたとうとしている。瑠々亜ちゃんはまだ浮かない表情をしていた。授業にまるで集中出来ていない。(俺もだ)
はっ、瑠々亜ちゃんの顔が青ざめている! 寒いのか!?
フフッ。ここは俺の出番だな。
そう思って俺は、鞄の中からカイロを取り出して、瑠々亜ちゃんに渡そうとした。
「いる?」
「え、なんで?? 大丈夫」
瑠々亜ちゃんは俺を睨みながら言った。
睨まれた!? なぜだ。そのくりっくりのお目目が台無しだよ。
もう分からん。俺の出る幕は多分終わった。
「ローマからアルベロベッロまでは、直通の特急列車フレッシアで四時間で行けます。皆さんもぜひ! きりーつきをつけーれぃ!」
「あざしたー!」
やっと終わった。
と同時に瑠々亜ちゃんは小走りで廊下へ出ていった。
もしや……。
瑠々亜ちゃんが戻ってきた。
やはりこの表情……
トイレだ。
トイレを我慢していたから目つきが悪くなっていたのか。
でもやっぱり、何はともあれ愛おしい。
行こうかなぁ。
アルベロベッロ。
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