第4話 攻略は順調

 攻略は、なかなかに順調だった。

 私達は、ヒロイン一人に対して起こっていたイベントを、四人で分け合うようにこなしていく。


 第二王子アウグスト殿下には、公爵令嬢のクリスティーネ様。この方は、校門のすっころびイベントの後は、保健室でのイチャイチャイベント、家庭科の授業での手作りお菓子で餌付けイベントをこなしてもらった。

 王子殿下は、こういうちょっとした触れ合いに飢えているので、正統派イベントで好感度が上がりやすい。

 クリスティーネ様はその高い地位に胡坐をかかない頑張り屋さんなので、膝をすりむき、侍女に泣かれながら、何度も自然にすっころぶ練習を繰り返した。手作りお菓子イベントの成功も、やけどにもめげずに頑張った彼女の成果だ。本当に涙ぐましい努力家だ。保健室の何を練習をしていたかは、いや、皆まで語るまい。


 公爵家バルドゥル様には、侯爵令嬢マヌエラ様。こちらは、頭上の階から水をかけられる濡れネズミちょっとスケスケイベント、教科書を破かれショックを受けて泣くお涙頂戴イベント、洋服を破かれる半お色気イベントと、いじめとちょっとエッチなイベントの担当だ。

 バルドゥル様は、Sっ気が強いので、いじめを受けて震え、怯えながらも色気を醸し出し、見る者の嗜虐心を煽るようなイベントが好感度が上がりやすい。

 小動物のような雰囲気の小柄なこのお嬢様(実はちょっとナイスバディ)は、体を張っていじめを受けて、涙を流し嗜虐心を煽る役どころだが、実はこの方は極太メンタルの持ち主だったりする。

 

 宰相ご子息ディートハルト様には、伯爵令嬢アンゲラ様。彼女は、図書館閉じ込め暗闇タッチイベント、実験爆発制服ズタボロお色気イベント、学内テスト勝ち抜き頭脳バトルなぜか途中で野球拳イベントをこなしていった。

 ディートハルト様は賢い女性が好きなので、優秀さと色気のある可愛さのギャップ萌えに好感度が上がりやすい。賢さをアピールしながら、実はあなただけにはエロ可愛い、なんて場面が最高だ。

 アンゲラ様の知識と探究心は飛びぬけていて、中身は、マッドサイエンティストばりに変な方へ傾いているため、このイベントのための研究も余念がなかった。

 お色気イベントは、初々しさも大事なんだよ!? そのジャンルの研究はもうやめておいた方がよくないかな!?


 騎士団長ご子息リヒャルト様には、子爵令嬢エルゼ様。こちらは元気はつらつ体育祭、課外実習での魔物戦闘イベント、ダンジョン攻略実習での遭難イベントなど、なかなかアクティブなイベントをこなしている。

 リヒャルト様は、可愛いながらもパワフルでたくましい女性に好感度を感じやすい。

 細くて儚げな印象のエルザ様は、実は体育会系筋肉マッチョマンも真っ青な無限の体力の持ち主だ。リヒャルト様の背中を守って共に戦えたと喜んで報告してくれたが、いや、ゲームにそんな攻略方法なかったはずなんだけど。君達、いったいどこに進むつもりなの!? まあ、上手く言ってるみたいだからいいや。気にしない。


 このゲーム、攻略に、幼い頃の思い出とか積み重ねてきた想い、なんてものが必要なくてほんとによかった。全て学園内のイベント+ヒロインの行動+ヒロインとの心に響く会話で攻略可能なのだ。


 この四人は、私が厳選を重ねた、「バッドエンドの監禁ルートでもウェルカム!」な重い愛をお持ちの方々ばかりだ。はじめからバッドエンドに進もうとした人もいたけど、それは全力で止めた。普通の愛を育んでほしい。攻略対象もその方が幸せだと思うよ?

 ちなみにイエッサーと叫んでいるのは、マヌエラ様と使用人も含めた侯爵家の面々だ。話から推測するにご先祖に転生者がいて、この家の掛け声がおかしなことになっているみたいだ。完全な余談なので気にしない。


 さて、エンディングは、卒業式の卒業パーティーで告白を受ける事。彼女達はそれまでにどれだけ好感度を上げるかがポイントとなる。

 私たちは、順調に攻略の日々を送っていた。


 そんな中、突如として、隣国の第五王子という肩書を背負った、怪しげな留学生が現れたのだ。

 私は前述のように、このゲームは基本パターンだけしか攻略していない。

 世の乙女ゲームには、隠しキャラなるものが配されているとは聞いているが、実はそれが誰かはわからない。

 彼は、外見、スペック共に素晴らしい。

 もしかしたら、彼は隠しキャラかもしれないと思い、彼にもヒロイン代理を立てることにしたのだ。

 隠しキャラでも、幸せになる権利はあるはずだ。

 同志達の情報網を駆使して、最適なヒロインを選抜したつもりだったのだが、結果からいうとこの人選はミスチョイスだった。

 彼女がそれまで完璧な猫を被っていたのもあったが、私たちは彼女の無鉄砲な性格に誰も気づけなかった。

 イベントの内容が不明なところに差し向けるのだから、もっと人となりをきちんと見極めて、慎重にな人物を育成するべきだった。


 結果として彼女は、ヒロイン講義も途中でこちらの許可なく第五王子へと特攻してしまった。

 そして、最悪なことに私達の活動まで口を滑らせたらしい。


 ということで、時間は、冒頭へと戻る。

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