第3話 開講の経緯

 ハニーピンクの髪に、ふわふわツインテール。愛らしい水色の瞳に、桜色の唇。薔薇色の頬。どこをどうみても可愛い私は、鏡を見るのが大好きだった。

 そして、いつもの通り鏡の前でポーズをとっていた私は、十歳になったある日、ふと恐ろしいことに気づいた。


 自分は「囚われヒロインは自由を求める籠の鳥」という人気乙女ゲームのヒロインだったのだ。


 ふー、今では心の整理をつけられたけれど、思い出した瞬間は、本当に背筋が凍った。

 このゲームは、何を隠そう、攻略対象者たちのヒロインへの執着がものすごいのだ。いわゆる、ヤンデレ、というやつだ。

 ハッピーエンドは、いわゆる溺愛。まあ許そう。

 でも、ちょっと間違うと監禁、監視、ストーカーetc。いや、さすがに殺害なんてのはなかったけど、とんでもないバッドエンドになる。全ての攻略対象者達がそうなのだ。

 姉に手伝わされて、無理矢理攻略に駆り出された私だったが、早々にげんなりしてしまった。

 多分攻略は、何パターンもあったけれど、基本パターンだけクリアして、私は早々に撤退した。姉にはヤンデレの良さが分かっていない!とぶーぶー言われたけど。


 さて、こんな世界にヒロインとして生まれ変わってしまった私は悩んだ。恐ろしくて、あんな攻略対象者達がいる場所に踏み込む気にはなれない。一番いいのは学園にいかないという選択肢だ。

 でも、学園は国に一つしかないし、あそこを卒業するのとしないのでは、その後の進路が雲泥の差だ。

 実は、私には、この世界で「やりたいこと」がある。

 この五年で、色々な方面からアプローチしてみて「やりたいこと」を叶えるための方向と手段は明確になった。

 そして、その実現のためには、学園を無事卒業して、誰も攻略しないで国を出る。

 これが必須条件なのだ。

 私は、ヤンデレ攻略対象回避の対策を真剣に考えた。

 そして、熟考に熟考を重ねてたどり着いた結論がこれだった。


「ヤンデレ攻略対象に、彼ら好みの囮を差し出して、回避する」


 彼ら好みの囮とは、すなわち、私のコピーだ。

 私は、「ヒロイン養成講座」を開き、私の代理の「ヒロイン」を養成し、攻略対象に差し出すことにしたのだ。

 まあ、囮を差し出すとか、散々人聞きの悪いことを言ったけれど、実は、これは攻略対象達のためでもある。

 回避するだけならば、私が逃げてしまえばいいだけだが、そうしたら彼らはどうなるだろう?

 放置し、ヒロインに出会えなかった彼らは、間違いなくヤンもデレもない哀しい人生を送るだろう。

 でも、もし私がやりたいことをあきらめて誰かを救おうと思ったとしても、ヒロインは一人しかいないのだから、一人しか幸せになれないのだ。


 なら、ヒロインが攻略対象分いればいいのでは? 


 ヒロイン役は、もちろん彼らを本気で愛する――彼らに振られたら死んでしまう、修道院へ駆け込む――と思うぐらい思い詰めている、愛の重い令嬢たちに絞って声をかけるつもりだ。幸いこのゲームには心当たりが結構いる。

 うまくいかなかった場合の監禁ルートなどの危険性も話しておいて理解を得られる人だけに依頼する。


 ということで、私は卒業して隣国へ行く前に、皆が幸せになる一大プロジェクトを成功させ、寝覚めよくこの国を去る予定だったのだ。


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