第15話

 近隣の村4つで集まって開催された収穫祭はとても賑わっていた。

 この祭りに合わせて旅商人もやってくるそうで、ちょっとしたアクセサリーや珍しいお菓子がそこかしこで売られていた。

 

 そんな中、俺と光弥はというと、今まさに槍の試合の真っ最中だった。

 今は『打撃』の種目の1つ、『突き』の測定中だ。『振り』はさっきやった。

 

 柱から縄でぶら下がられた重りに向かって槍を当て、その動いた高さを競う。

 かなり重いので、真面目にやらないとあまり動かない。

 気合の入った声を出して、むさくるしい男たちが重りに向かって槍を突きさすと、重りが少し浮く。

 

 物凄く地味な絵面だ。

 

 俺はさっき終えたところで、午後の決勝にはぎりぎり出られるだろうとアレクさんが伝えてくれた。あの朝から『突き』の調子も良く、この試合でも意外といい記録が出せたので地味に嬉しい。

 

 この槍の試合は名目上は祭りの余興となっているが、それにしては随分と気合がはいっているように感じた。

 なぜなら各村の村長が即席で作られた高台の上で集まり試合の進行を真剣に眺めているからだ。しかも俺たちになぞなぞの問題を吹っかけてきた村長の後ろには、黒いフードを深く被った謎の人物が同席している。


 噂が本当なら、彼が魔術師なのだろう。

 

 高台の方を見ていると、後ろで歓声が沸き起こった。どうやら連撃でいい記録が出たらしい。

 

 ちなみに、この槍の試合は午前中は予選、午後に決勝となっている。

 ただ、模擬戦は1つの村につき1チームなので午後のみにトーナメント方式で行われる。

 予選は人数も多く、個人戦なので進行が遅れるため、打撃も連撃も投擲もほぼ同時に進行していた。


「やったぜ明! 予選1位になった!」

「さっきの歓声お前だったのか! 凄いな、記録は?」

「38回! 途中で詰まらなければあと5回はいけた」

 

 連撃は15秒間で何回決められた場所に一定以上の威力を持って当てることを出来るかを競う。

 動きが素早いし、派手に動き回るので、観客も多い。

 時間は砂時計、回数は何人かの審判が見る。威力は対象に付けられた木版が衝撃で跳ね上がり、上の打ち付けられた横杭に当たるかで判断される。

 

 今年がこの辺りでは初めての開催なので、公式記録などはないそうだが、『多分しばらくは超える者はないだろう』by アレク。


「これで午前は終わりだから、なんか食いにいこう」

「いや、光弥、俺たち金持ってない」

「さっきアレクさんがふらっと来て『村長から君たちに、って』とか言って貰った」

 

 光弥はそういってポケットから小銭袋を取り出すと、近くの屋台に走っていった。

 さっきからアレクさん暇か。

 屋台にはパンに色々とトッピングされたピザみたいな食べ物が並んでいた。

 甘い系から辛い系までバリエーション豊富だ。


 俺も光弥も羊肉ののった物を選び、店主が槍を見てたとかでおまけに果物が沢山載った方もおまけしてもらった。


「これで、十分かな。これ以上食ったら午後の決勝に響くし」

「せっかくの祭りだってのに、なんかもったいないな」

 

 小銭袋をみれば、まだ少し余っている。


「………午後に小腹がすいた用のお菓子でも買っとくか」

「だな」

「そこのお二人さん!」

「「?」」

 

 しゃがれた声に呼ばれて振り返ると、ずらりと並んだ大小の武器と小柄なおじいさんが眼に映った。


「槍の試合に出とったじゃろう? 槍もそれ以外も良いもの揃えてるでな、ちょっと見ていかんか? お安くするでよ」

 

 近づいて見れば、確かに色々な武器が置いてあった。元居た世界ではこんな風に大量の武器を見ることが無かったので、俺も光弥も珍しもの見たさでその場にしゃがみこんだ。

 

 武器の良し悪しは当然2人とも分からない。

 これは何、それはあれ、とにこやかにおじいさんに説明してもらいながら物色していく。

 光弥は特に剣が気になるようで、許可をもらって1つ1つ手に取りながらしげしげと眺めている。

 

 1本の長剣を手に取ったとき、光弥の目の色が変わったのが分かった。実際素人目にも良い剣だと分かった。

 全長は90センチほどで、幅は細すぎず、広すぎずといったところだ。装飾は全くと言っていいほど無かったが、刃こぼれもなく、刃が鈍く輝いていた。


「これ、いくらですか」

「お、おい。俺たち大して持ってないぞ」

「あ、そっか」

 

 何かにとりつかれたように剣を買おうとする光弥を俺は慌てて止めると、光弥は開いた小銭袋の口を閉じてポケットにしまった。

それを見それを見たおじいさんは何を思ったのか、変な提案をしてきた。


「実は、槍の試合が開かれているせいもあるのか、槍以外の売れ行きがすこぶる悪くてのぉ。どうせ誰も買うどころか見てくれもせん。そこでじゃ、1つお主らとワシで賭けをせんかのぉ?」

「「賭け?」」

「そうじゃ」


 おじいさんは相変わらずにこやかな笑みを崩さないまま、光弥が見つめる剣を指差した。

「君たちが参加する種目のその全てで優勝することが出来たならば、この剣をそっちの興味津々な君にタダで譲ろう」

「え、俺も優勝しなきゃいけないんですか?」


 光弥だけならまだしも何故俺まで優勝目指さなきゃいけないんだ。


「そうじゃ、なぜなら君からは優勝の気配を今のところ全く感じない」


 おい失礼だなあんた。老人だからって敬語で話してりゃ調子に乗りやがってこっちは客だぞ、ナイフ1本だって買う金ないけど。


「とにかく、2人ともだ。いいかい」

「はい!」


 光弥? おじいさんの話聞いてた? 俺も俺は優勝できないと思うよ?


「それで、もし賭けに俺たちが負けたら?」


 模試じゃねえよ、確実にE判定だろうが。ていうか絶対ヤバいこと要求されんだろ止めようよ。


「この剣1本分の働きをしてもらう」


 ………………それだけ?


「分かった! いいよな明!」


 え、良くないよ? いや、でも負けても剣1本分の手伝いなら、まあ、良い、のかな?


「う、うん」

「よっしゃあ! 頑張ろうぜ!」





俺たち2人が賭けの本当の意味を知るのは午後の部、決勝に入って暫くの事だった。


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