第16話

 槍の試合、午後の部が始まった。

 予選の時にはまばらだった観客も、決勝ともなれば気になるようで多く集まっている。

 決勝は『打撃』『投擲』『連撃』『模擬戦』の順番に始まる。


「男の価値は、ただ1撃のみにて示せ」

 

 と、昔槍の試合を広めた王様が言ったので、『連撃』『模擬戦』以外はチャンスが1度きりしかない。

 

 まずは打撃の『閃』からで、最初に出るのは、───俺だ。

 何故かというと、記録の低い方から出すのが習わしで、俺が1番低かったからだ。自分の中では割といい結果だっただけに、決勝のレベルの高さが伺える。

 とはいえ、予選での『閃』は、あの朝の時ほど力を出し切れていなかった。あれを出すことが出来れば、光弥が剣を貰えるかもしれないっ!

 

 ………だからなんで俺まで優勝しなきゃいけないんだよ。

 審判の指示に従い、所定の位置に立つ。


『閃』の測定も『突』と同じく、ぶら下がった重りに当てて、その重りがどれだけ動くかで決まる。

 重りに触れている細長い針が重りに押されて動き、定規の上をスライドし押されなくなったところで止まるという仕組みだ。イメージは握力測定器が近い。あれも握ったら、1番力の出たところで止まるだろ?

 

 重りは何で出来てるんだと思うぐらい、重い物質で出来ていて、少しの衝撃では揺らぎもしない。予選1位の人でも20セル(俺たちで言うところの20センチ)しかいかなかった。


 俺は予選では12セルで、8位だった。

 ここから、20セル以上行くにはやはり、あの時の感覚を出来る限り体に思い出させるしかない。それでも、届くかどうかといったところだが。


「明ぃ! 頑張れよ!」

 

 ああもううるさいなあ、せっかくいい感じだったのにイメージが霧散しちゃったじゃないか。何だってんだチクショウ、集中が切れたせいか太陽の光まで気になって、あ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 金属がかみ合う音が、試合会場を超え、祭り全体に響き渡った。

 その音の大きさたるや、試合に興味なく屋台を歩く耳の遠い老婆まで驚いて振り返るほどだった。

 

 その音の原因は、今まさに打撃の『閃』を終えた者にほかならない。彼の強烈な1撃は、重りをかつてないほどにひびかせ、触れていた針があともう少しで届かなくなるほどまで重りを振り上げた。

 周りで見ていた者は愕然とし、そのありえない光景に、ただ、口を開くことしか出来なくなっていた。

 

 予選では何とか決勝まで通過できただけの少年が、あともう少しで「測定不能」の域にまで重りを動かしてしまったのである。


 記録、60セル。

 

 当然、槍の方も無事では済まなかった。重りをあれほどに動かす力が加わったのだ。 触れた瞬間に折れていても不思議ではなかった。だが、ギリギリまで耐えたのか、木の筋一本がかろうじて槍を繋いでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 え? ナニコレ。

 嘘だろ、気付いたら振りぬいていて、重りに槍を全力で当てていた。

 そしたら、見たことない高さまで跳ね上がった。

 

 うそぉ。槍折れてるし、マジで俺がやったの?

 周りを見れば誰もが大きく揺れる重りと、俺を凝視していた。信じられないものを見て、固まっている。

 俺だって信じられない。

 こんなのは俺じゃない。

 よし、しらばっくれよう。


「………俺、なんかやっちゃいました?」

 

 ちがああああああああああう!!!!!!! 何言ってんだおれええええええええええ⁈

 なに鈍感系主人公みたいなこと言ってんの俺⁈


「今、何か言ったかね?」

「あ、いえ、なんでもありません」


 良かったああああああああ!!!!!!! 聞こえて無かったあああああああ!!!!!!!

  


 審判に聞かれていなかったことに安堵しつつ、俺は光弥の近くに歩いて行った。


「マジかお前、イケるとは思ってたけど、まさか測定不能近くまで上げるとは予想外だったわ」


 光弥は褒めてはくれているが、目が点になっている。それほど驚きの記録だったのだから仕方がない。というか俺の方が驚いている。

 

 俺の次の人が測定に立った。

 あんな記録が出てしまったものだから、かなり逃げ腰になっているのが目に見えて分かった。結果も、予選よりも悪い記録だったので多分あの人が最下位になるだろう。

 

 という俺の予想を裏切る形で、『閃』の計測は進んでいった。

 順番が下がるごとに、ほとんどの記録が悪くなっていくのだ。

 そしてとうとう、予選1位で優勝候補だった大男が出てきた。

 予選の時には自信に満ち溢れていた顔は、遠目でも分かるぐらいに青褪めていて、体も小刻みに震えていた。どう頑張っても越えられない記録が彼を恐怖させていた。

 

 彼は重りに槍を触れさせると、少しも動かすことなく力尽きたようにその場に倒れ伏した

 ただの祭りの余興は、俺すらも驚愕する記録によって、恐れにも似た緊張につつまれていた。

 

 全員が終わったので、次は『突』の計測になる。周りを見渡すといつの間にか光弥がいなくなっていた。

 まあいいかと、俺がまた重りに向かうと、観客がどよめいた。

 突きに関しては普通なので期待しないでくれるといいなと思いつつ、アレクさんに教えられた構えに入った、が、陽の、光が………。



「また測定不能近く……」

「ありえない」

「魔術でも使ってるのかね?」

「いや、それらしき仕草はしてなかった」

「すごい……」

「すごいな……」

 

 ………また、やっちゃった。

 いや、おかしい。いくら何でも出来過ぎている。『閃』どころか『突』までもこんな結果になるなんて。

 さっきから変だ。いやに太陽の光が気になるし、いつのまにか動作が終わっていて、計測まで済ましている。

 まるで太陽に体を乗っ取られているような感覚がする。

 

 俺、なんかキメちゃいました? 


「試合の進行についてお知らせです。打撃の次は投擲となっていましたが、急遽連撃との入れ替えをすることとなりました。繰り返します………」

 

 祭りの全体を仕切る所から、連絡がされているのが聞こえた。

 俺は、あの朝の時と同じ状態に陥っていた。全身から汗が噴き出して、急速に意識をなくしていくのを感じた。

 

 しばらくして目を覚ますと、俺は休憩室らしき場所で寝かされていて、光弥が『連撃』で大記録を残して優勝したことと、俺と光弥が模擬戦のメンバーに選ばれたことを光弥から聞いた。

 

 ………………なんで俺が出んの。






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