祭編
第14話
祭りの2日前から、どの村も準備で忙しくなり始めていた。
老人も若者も村娘も子供も客も。
そう、客も。
「アカリィ! そこの荷物全部あっちの荷台にまで運んどいてくれ!」
「はい!」
「アカリ君! ランプが予定より足りないって資材の人に伝えてきて!」
「はい!」
「おい、誰でもいいからコレ持つの手伝ってくれや!」
「はいぃ‼」
きっと村の人も、俺たちが立ち寄っただけの旅人だという建前を忘れているに違いない。完全に俺たちは受け入れられていた。
受け入れるというか、こき使ってきた。
祭りの準備というのは、こんなにも忙しいものなのか。そういえば、高校の学園祭も経験しないまま来てしまった。もしかすると、学園祭もこんな感じなのかもしれない「アカリ!! あっちで人手が足りないって‼ 一緒に来て‼」などと感慨にふける暇もない。
いつになったらこの忙しさから解放されるのだろうか。しかも槍の訓練も夕方に行うとかで、殺しに来てるのかと聞きたい。
光弥も、忙しそうに走り回っていた。俺が言った通り女の子に見つかったら、笑顔で手を振っている、なんて事はせず、逃げ回るかのように手伝いをしていた。
正直、こき使われるほどに村に馴染めてきているので、これ以上積極的に何かする必要はないだろう。槍の試合に誘われた時点でそんなことは分かっていた。
けど、やはり光弥の異常なほどの女性恐怖症はどうにかした方がいい気がする。
そんな思考も、次の瞬間には与えられた仕事に押し流されていった。
「ふぃー、やっと今日の仕事は終わりかー」
「………マジで疲れた」
光弥はすっかり暗くなった空を仰ぐように地べたで胡坐をかき、俺は体育座りで足の間の地面に視線を落とした。
「………連撃の方、どうなの」
光弥は、連撃にも出場することになったらしい。元々は模擬戦の人が1人掛け持ちする予定だったのを、譲ってもらったのだとか。
打撃はほぼ完璧だとアレクさんが言っていて、今日はずっと連撃のところで練習をしていた。
「まあ、いい感じ。けど、正直言うと、俺は槍との相性あんまりよくないかもしれない」
「うそぉ、あんだけ綺麗に振りぬいといてよくまあそんなこと言えるな」
連撃だって既に上位に食い込めるって言われていたじゃないか。
「いや、なんていうか、扱い方も分かるし良い動きも出来てる自信はある。………だけど、あるような気がしてならないんだ。もっと、俺に合う武器が」
「なんだ、それ?」
「なんていうのかな、……がっちりとかみ合うような感覚って言うのかな。
それを完璧に扱えた時、いつも燃え立つような、全身の力をソレに持っていかれるような」
光弥の探るような表現が、少しずつ、俺の核心に迫ってくるような錯覚に襲われる。
コイツの言いたいことが俺には分かると本能が囁く。
「まるで、自分がソレになってしまうような……?」
「そう、それ!」
光弥が同意した時、俺の中で数日前の早朝に自分の身に起こったことがフラッシュバックしていた。あの時の感覚は、そういうことだったのだ。
体力すらも根こそぎ奪われるほどに俺と槍は一体化していたのだ。
「それが、槍にはない訳よ。まるで、『私ではあなたの限界は引き出せない』って言われてるみたいなんだよ」
「そう、なのか」
「でも、どうやら明は掴んだみたいだな。今の聞いて確信したわ」
「え?」
「気づいてないとでも思ってたのか? 同部屋だぞ、ドアの音で目が覚めるわ。………5日前だったっけ、お前徹夜で練習してたよな。で、夕方の練習でぶっ倒れたりしないか見てた。そしたら急に体重の乗ったクッソ重そうな横薙ぎをして、疲れ切った顔でへたり込むもんだから、昔の自分を見てるみたいで笑ったわ」
「見てたのか」
「ああ」
光弥は、それきり何も言わずに立ち上がった。
俺も光弥に続くように立ち上がると、そのまま2人でアレクさんが待つ家に向かった。
祭りが始まった。
俺たちの気づかぬ裏に、何かを隠しながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます